初対面 ページ42
指定された駅の西口に着いたものの、顔も知らない人を見つけられるのだろうか。
腕時計は待ち合わせの五分前を指していた。
休日の駅には、親子連れやお洒落をした男女が通り過ぎる。半袖を着ている者はほとんどいない。風の匂いも、もう秋なんだなと実感する。
緊張により落ち着きを無くしていると、右肩から声がかかる。
「すみません、矢田さんですか?」
「あ……はい」
美しかった。彼女の纏う空気に呑まれ、返事が遅れる。何故か、一瞬で緊張が和らいだ。
「朝倉恵美です。早速、移動しましょうか」
ふわりと微笑む奥さんに言われるがままに付いて行く。
暫く歩くと、落ち着いた雰囲気の高そうなお店に着く。ここまで何も話さなかったが、不思議と沈黙は苦にならなかった。中に入り奥さんが店員に声をかけると、個室に案内される。
「飲み物、どうされます? この後、ランチのコースを予約してあるんですが、まだ早いですし。おすすめはフルーツティーです。私はそれを頼みますが、Aさんもご一緒にいかがですか?」
次々と進む展開に戸惑いを隠せずにいると、奥さんは口元に手を当て上品に笑う。
「遠慮なさらないで。私に奢らせて下さい」
「えっと……では、お言葉に甘させて頂きます……」
そんなに固くならないで、と彼女が残念そうに言うので、フルーツティーにします、と一生懸命に笑ってみると、今度は満足げな顔をしてくれた。
「あの、どうして私って分かったんですか?」
「何となく」
気になったことを聞いてみると、奥さんは可愛らしく首を傾け、そう答えた。
それから彼女は自身の趣味の話をし始め、その会話術のせいか、私はすぐに引き込まれた。
今日初めて会い、時間もあまり経っていないというのに、自然と心を開いている自分が居た。目の前の彼女には、どんな険悪な関係も吹き飛ばしてしまう力があるようだ。
自らも色々と質問していると、先程頼んだものが運ばれてきた。
ガラスのポットには、色とりどりの果物が紅茶と一緒に入っていた。香りも見た目も豪華なそれを、奥さんが口を付けたのを見てから、自分も口に含む。
「美味しい!」
それはつい声をあげてしまうほど美味しかった。
そんな私を、奥さんは慈しむように見つめた。
その視線に胸が熱くなった。
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megumi(プロフ) - いなすらさん» ありがとうございます!ご期待に沿えるよう、頑張って執筆します(^^) (2019年5月22日 18時) (レス) id: 04e98a2c19 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - めぐみさん» 誤字でしたか(笑)大丈夫ですよ!続き楽しみにしております((。´・ω・)。´_ _))ペコリン (2019年5月22日 17時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
めぐみ(プロフ) - いなすらさん» いなすらさん、ご指摘ありがとうございます!誤字です、申し訳ありません。すぐに訂正いたしますm(__)m (2019年5月22日 17時) (レス) id: a2b7118433 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - 作品名、幸せだからいになっていますが、誤字でしょうか?意図的なものではないと思いますが、そうだったらすみませんm(*_ _)m (2019年5月22日 15時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年5月21日 5時