桃色 9輪目 ページ10
初めて見た表情に、私の胸が締め付けられて痛くなる。
「何でだよぃ……」
独り言ともとれるブン太の吐いた息だったが、彼は揺れる瞳でしっかり私を見据えていて、それは私に対して投げかけた声だと悟る。きっと私が何か言わないといけないのだけれど、探しても言葉が見当たらない。
何も答えない私に一層表情を哀しくした彼は、道の方に向き直ってそのまま歩き出した。掴まれたままの手首はもう包み込むような優しい力に変わっていて、振り払おうとすればできたと思う。
でも私はその手に導かれるままに着いて行った。
着いた場所はやはりあの公園で、でもそれは期待外れとかではなく、ブン太もこの場所を特別と思ってくれているのかな、と思うと嬉しかった。
ベンチに彼が座って、流れるように私も座る。
帰り道では湿気の多い夏の空気に汗を誘われて嫌気がさしていたが、この場所に居ると同じ空気のはずなのに何故か安心感が呼ばれて、ふんわりと包まれてしまう。
それはきっとこの公園が特別で、隣には彼が居るから。
いつの間にか手首にあった彼の手は、私の手に下りていて、微かに指が絡んでいた。
さっき全身が諦めに埋め尽くされていたはずなのに、それはいつしか消えて、この心地良さと速まる鼓動に身を委ねている。
「A、何回も言うけど、俺はお前が好きだ」
素直に嬉しかった。けれどその後で、"私とあなたは違い過ぎる"という考えが蘇り、自分の気持ちに歯止めがかかる。私も好き、なんて言えない。
重なった手を離そうとすれば、まるでそれが分かっていたかのように、きゅっと握られた。
「お前は、"私なんか"とか言うけど、俺はそんなAの全部が好きなんだよぃ」
手から彼に伝わってしまわないかと不安になるくらいに、加速する鼓動。全身から想いが溢れ出てくる感覚に酔いそうだ。
でも、私に彼の手を握り返す資格はあるのだろうか。
視線と共に頭を俯かせた時、握られた手が持ち上がって、反射的に彼を見た。
「Aが自分を嫌うなら、その分も俺はお前を好になるぜ、な?」
明るい口調とは裏腹に、表情は切ないままで、余裕の無さと愛情が、絡んだ指から流れてきた。
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megumi(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます!登場人物達に寄り添ってお読み頂き、とても嬉しいです。沢山のお褒めの言葉と、作品を好いて下さり、ありがとうございます。これからも、執筆活動に勤しんでいきたいと思います! (2021年3月5日 18時) (レス) id: ba823ca860 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 他の作品と比べるのは野暮かもしれませんが、今まで読んだどの小説よりも心理描写が丁寧で登場人物に共感しまくりでした。きゅんきゅんしたり苦しくなったり感情の変化が忙しかったです。2つのエンドを見れたのも嬉しかったです。何回も読み直させていただきます。 (2021年3月5日 15時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - YUEMINさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けて、作者はとても嬉しいです(*^▽^*)応援に応えられるよう、頑張りたいと思います (2019年10月21日 18時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
YUEMIN(プロフ) - 完結おめでとうございます!楽しく読ませていただきました!!次回作も頑張ってください。応援してます。 (2019年10月21日 18時) (レス) id: 1af2bac581 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - ユッキーさん» いつも応援して下さり、ありがとうごさいました!沢山感じて頂き、嬉しく思います(^^)恋という感情は不思議ですよね。この作品を素敵と言って頂き、感謝です! (2019年10月14日 7時) (レス) id: b41fbb72a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月11日 22時