桃色 8輪目 ページ9
-Aside-
ブン太に抱き締められた時、体中を満たしたのは"諦め"だった。
彼の胸から伝わる鼓動も、苦しい熱も、私が受け取れるものではなく、これから彼が出会う相応しい人のもの。
卑屈になっている、と言われるかもしれない。でも、私とブン太との差が大きいのは確かで、それを埋める術なんて持っていなくて、強く輝く彼の隣を歩ける私ではないから……。
すぅっと距離が遠くなってゆく感じがする。辛くない、大丈夫。近付きすぎた距離が元の場所に戻るだけ。
実際のところ、友達でいられる立場すらない私だから、その距離も近すぎる。きっともう一つ前の、ただ少し存在を知っているだけの関係が、私達のあるべき距離なんだと思う。
「帰ろう。……ね?」
ブン太を真っ直ぐ見る。目が合うと、意思とは反対に哀しさが募る。
上手く笑えているだろうか。
ぼやける道を見つめながら、とぼとぼと彼の後ろをついてゆく。
二人とも何も話さない。彼は後ろを振り返ることなく、ただ前を向いて歩いている。
意味もなく足元の小石を数えながら歩いている内に、いつの間にか家の前に着いた。
早かったような、遅かったような、不思議な感覚。明日になれば、確実に二人の距離がもう縮まらなくなる、そんな気がして、無意識に寂しく思ったのかもしれない。
そんな愚かさを隠すように、早々と玄関に向かおうとする。
「もう家に着いたから――」
その刹那、手首が反対方向に引っ張られ、その勢いに少しバランスを崩す。
「帰るな……行くぞ」
キリキリと手首が痛いくらいに締め付けられる。こんなことは今までなかった。けれど、その痛みは手首よりも心に突き刺さった。
「ど、こに?」
彼の方は向かず、そのまま返事をする。何処に行こうとしているのかなんて、分かっているはずなのに、それくらいしか言葉が浮かばなかった。
震えているのは、自分の手か、それとも彼の手なのか。
「こっち、見ろよ」
小さな声、でもいつもより低いそれに、とくん、と胸が動く。
ぎこちなく振り返れば、切なく眉が寄せられた顔が視界に滲んだ。
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megumi(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます!登場人物達に寄り添ってお読み頂き、とても嬉しいです。沢山のお褒めの言葉と、作品を好いて下さり、ありがとうございます。これからも、執筆活動に勤しんでいきたいと思います! (2021年3月5日 18時) (レス) id: ba823ca860 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 他の作品と比べるのは野暮かもしれませんが、今まで読んだどの小説よりも心理描写が丁寧で登場人物に共感しまくりでした。きゅんきゅんしたり苦しくなったり感情の変化が忙しかったです。2つのエンドを見れたのも嬉しかったです。何回も読み直させていただきます。 (2021年3月5日 15時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - YUEMINさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けて、作者はとても嬉しいです(*^▽^*)応援に応えられるよう、頑張りたいと思います (2019年10月21日 18時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
YUEMIN(プロフ) - 完結おめでとうございます!楽しく読ませていただきました!!次回作も頑張ってください。応援してます。 (2019年10月21日 18時) (レス) id: 1af2bac581 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - ユッキーさん» いつも応援して下さり、ありがとうごさいました!沢山感じて頂き、嬉しく思います(^^)恋という感情は不思議ですよね。この作品を素敵と言って頂き、感謝です! (2019年10月14日 7時) (レス) id: b41fbb72a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月11日 22時