水色 8輪目 幸村side ページ32
どうして柳がAの隣に居るのか、それをどうこう言う筋合いはないのだが、納得がいかない。勝手な感情だと分かっていても、どうしても嫌だった。
丸井だけでなく柳までもが、彼女の心に入り込んでいるなんて、想定外だった。俺には見せない表情が彼らの前には現れる。悔しいことに、俺は本当の彼女を何も知らない。
これはきっと嫉妬以外の何物でもない。もう認めざるを得ないのだろう。
線の中の顔を見せて欲しい。知りたいと思う。
一度か二度だけ、俺も線の向こう側の彼女を垣間見たことがある。それは涙だった。でも、その理由は分からない。彼女に何があったのだろうか。
あの消え入りそうな弱い姿を守ってあげたいと本能的に思った。
「精市」
いつの間にか柳が隣に居て、静かな声で名前を呼ぶのが聞こえた。
「何だい?」
内心驚きつつ、いつもの自分を装って応える。だが、続けられた彼の言葉に沸々と何かが湧き上がるのを感じた。
「俺は、人の恋路をどうこう言うつもりはない。だが、中途半端な気持ちでAの傷を増やすな」
「いったい柳は彼女の何なんだい?」
苛立ちを隠せずに、らしくもなく語気がやや荒くなる。
「フッ、何だって良いだろう。そんなことが精市に関係があるのか」
俺に対して、珍しく挑戦的な柳に疑問を感じる。まさか――と、予想がある事に辿り着く。
「ただの戦友だ」
「戦友……?」
友達でなく戦友と答えた彼だが、それが逆にAと分かり合っているように思えてしまい、やはり自分とAとの距離は、遠いのだと知らされているようだ。
「柳は、Aの傷を知っているのかい?」
「今のお前に教えるつもりはない」
頑なに口を割らない柳に、俺は仕掛けた。どうしても、あの涙の理由を知りたかった。
「彼女、ある男子に会った時、泣いていたときがあったんだ」
「興味本位で詮索するな」
「それはお前が言えることではないだろう。それに、興味本位なだけじゃないさ」
柳は黙った。でも、そこでチャイムが鳴ってしまい、その先は聞けなかった。
「精市、今のお前はまだ信じられん」
そう言い残して彼は去って行った。
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megumi(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます!登場人物達に寄り添ってお読み頂き、とても嬉しいです。沢山のお褒めの言葉と、作品を好いて下さり、ありがとうございます。これからも、執筆活動に勤しんでいきたいと思います! (2021年3月5日 18時) (レス) id: ba823ca860 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 他の作品と比べるのは野暮かもしれませんが、今まで読んだどの小説よりも心理描写が丁寧で登場人物に共感しまくりでした。きゅんきゅんしたり苦しくなったり感情の変化が忙しかったです。2つのエンドを見れたのも嬉しかったです。何回も読み直させていただきます。 (2021年3月5日 15時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - YUEMINさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けて、作者はとても嬉しいです(*^▽^*)応援に応えられるよう、頑張りたいと思います (2019年10月21日 18時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
YUEMIN(プロフ) - 完結おめでとうございます!楽しく読ませていただきました!!次回作も頑張ってください。応援してます。 (2019年10月21日 18時) (レス) id: 1af2bac581 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - ユッキーさん» いつも応援して下さり、ありがとうごさいました!沢山感じて頂き、嬉しく思います(^^)恋という感情は不思議ですよね。この作品を素敵と言って頂き、感謝です! (2019年10月14日 7時) (レス) id: b41fbb72a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月11日 22時