【テニプリ】白色マーガレット part.3【丸井ブン太】【幸村精市】

水色　5輪目 ページ29

-Aside-

　梅雨開けはもう少し先、 休日に私の家であずさとテスト勉強をしている。
　太陽が隠されているせいで、昼間なのに薄暗い部屋。じめじめとした空気が更に暗くしているような気がする。

　数学の応用問題に手こずっていると、じんわりと汗が滲み、それがまた苛立ちを煽ってくる。
　そんな時、ふと、前で動く手が止まるのが見えた。

　その手の主である親友が、急に神妙な雰囲気になったので不思議に思い、自分も手を止めた。
　数秒間の沈黙が、彼女の抱える話題の重さを伝える。


「どうしたの？」

　耐え切れずに様子を伺う。
　その後に続く返事を知らない私は、ただひたすら待つしかなかった。

　少し後、大きな衝撃と共にその返事はやって来た。


「あのさ、あたし……精市と別れたんだ……」


　反射的な声さえ出ず、ただ固まった。


「何か、付き合ってるっていうよりも、友達の方があたし達には合ってると思って」

　そう言いながら、乾いた笑い声を不自然に被せる様子は、明らかに何か無理をしている。それなのに、聞かないで、という壁が立ちはだかっているように感じるから、その先には踏み込めない。

　もし、私が幸村君への想いをまだ抱えていることが原因だとしたら……、そんな不安は簡単に見透かされて、「Aのせいじゃないから」と真っ直ぐな瞳で射抜かれた。


　好きな人には恋人が居て、届かぬ想いに苦しんでいたけれど、ある日その恋人同士が別れたと知る。

　こんな時、一般的にはどんな感情になるのだろうか。

　ただ言えるのは、今の私には嬉しいなんて気持ちは一片もないということで、なんだろう――哀しすぎる。

　けれど、どうして別れたの、なんて軽はずみなことは聞けなくて、沈黙を繋いだ。

　体中に雨音が充満する。

　あずさと幸村君の幸せな姿を見るのが好きだった。確かに胸を痛めていたけれど、その度に恋心は愛情に変わっていった。

　幸村君への想いを否定したとき胸が痛まなくなったのは、本能で友情を優先しただけではなく、恋が見守る愛に変化していたから。

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