桃色 16輪目 ページ17
怖がりの自分を慰めて、一歩の勇気が出たら、早く彼に伝えたくて逸る想いが、胸を押し上げて抑えきれない。
部活中も早くブン太に会いたくて仕方なくて、考えるだけで胸がきゅっと音を立てて切ない苦しさを伝えた。
久しぶりに感じる光溢れる恋の高鳴りに体が軽やかになる。
かと思えば、十中八九テニスコートからである女子のブン太への悲鳴に心がざわめいて、さっきまでの軽やかさが嘘のように影を落とす。
そしてまた今度は、ブン太に抱き締められた記憶が蘇って、顔に熱が集まる。
上がっては下がり、下がってはまた上がる気持ちが恋の醍醐味なのかもしれない。
いつもの放課後の時間なのに、自分の想いに素直に向き合っただけで、ブン太と上手く話せない。お菓子を頬張る彼の笑顔に鳩尾が強く締め付けられる。
四人で居るからまだ誤魔化せるけれど、鼓動が激しく打ち付けて、視線さえ合わせられなかった。
帰り道になって、分かれ道まで来た。
あずさと幸村君に手を振って別れると、急に足がすくんで体が重くなる。次第に顔も俯き加減になってゆく。
伝えたい、伝えたくない、伝えられない。
「どうした？」
かがみながら、私の顔を覗き込もうとするブン太に焦り、急いで顔を逸らす。
「な、何でもない」
あ、と思った。何だかまるで嫌に思って避けたような態度になってしまった。そんなことは出来ないと分かっていながら、時間を巻き戻したいと願う。
たった数秒間の沈黙が私を責め立てる。彼の表情を見られない。なのに、勝手に頭がそれを推し量ってしまい、届かない"ごめんね"を何度も胸の内で繰り返す。嫌いにならないで、なんて我儘も繰り返している。
「何でもないこと無いだろぃ？ ま、言う気になったら聞いてやるから話せよぃ」
明るい声が聞こえた時、ほっと胸を撫で下ろす。でも、その後にふと視界に入った彼の少し沈んだ表情に後悔が募った。
今日言わなきゃ、彼が遠くに行ってしまいそうな気がした。ブン太はすぐ隣に居るのに、行かないで、という気持ちで苦しくなる。
それなのに、意気地なしの私は、言い出せないままで、ついに家の前に着いてしまった。
「じゃあな」
「う、うん、また明日」
もう間に合わなくなる……。
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megumi(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます！登場人物達に寄り添ってお読み頂き、とても嬉しいです。沢山のお褒めの言葉と、作品を好いて下さり、ありがとうございます。これからも、執筆活動に勤しんでいきたいと思います！ (2021年3月5日 18時) (
レス) id: ba823ca860 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 他の作品と比べるのは野暮かもしれませんが、今まで読んだどの小説よりも心理描写が丁寧で登場人物に共感しまくりでした。きゅんきゅんしたり苦しくなったり感情の変化が忙しかったです。2つのエンドを見れたのも嬉しかったです。何回も読み直させていただきます。 (2021年3月5日 15時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - YUEMINさん» コメントありがとうございます！楽しんで頂けて、作者はとても嬉しいです(*^▽^*)応援に応えられるよう、頑張りたいと思います (2019年10月21日 18時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
YUEMIN(プロフ) - 完結おめでとうございます！楽しく読ませていただきました!!次回作も頑張ってください。応援してます。 (2019年10月21日 18時) (レス) id: 1af2bac581 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - ユッキーさん» いつも応援して下さり、ありがとうごさいました！沢山感じて頂き、嬉しく思います(^^)恋という感情は不思議ですよね。この作品を素敵と言って頂き、感謝です！ (2019年10月14日 7時) (レス) id: b41fbb72a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2019年7月11日 22時
