桃色 11輪目 幸村side ページ12
-幸村side-
昨日からAの様子が妙に引っかかり、何故だかこのままではいけいけない気がして、今朝教室に入り「おはよう」と簡単な挨拶をした後、話を持ち掛けた。
一学期間は席替えをしないと担任の先生が決めたので夏休み前の今でも隣の席の彼女は、相変わらず勉強をしているところだった。
「何かあった?」
「え? 別に、何もないよ」
唐突な俺の質問に、最初は少し驚き目を合わせたが、すぐに逸らされてしまった。
その反応が、以前の彼女とは違うことを示している。
俺が、その人間性に恋愛感情と履き違えてしまうほどに惹かれてしまった、あのAは今どこに居るのか。
真っ直ぐで透明だった眼差しは、少し冷めて影を帯びてしまっている。
恥じらいを帯びたはにかみは、何かを諦めた寂しい笑みになっている。
彼女の返答は予想していたので、ここで引き下がるつもりは毛頭ない。
「そう? あずさも心配してたよ」
親友の名前に反応して、Aはペンを止めた。
実際にあずさがAのことを口に出していた訳ではない。
ただ、顔には心配の文字が書かれていたし、度々伺うような視線でAを盗み見ていたから、あずさが彼女をとても気にかけていたのは分かっていた。
けれど、あずさの前ではAの名は出さなかった。出したくなかった。
その名は俺達の距離をあやふやにさせた原因の二つの内一つだったから。
俺は、Aの俺には全くない人間性に惹かれて、それを恋愛感情と混同してしまいそうになっていた。それが故にあずさを不安にさせてしまって、彼女の心も離れていきそうになっていた。
彼女の不安に寄り添い、その心を奪おうとしていた人物が原因のもう一つで、仁王だ。
それに気付いたとき、嫉妬や不安で俺の胸は染まった。でもその感情を抱いたからこそ、俺の気持ちを再確認できた。あずさが好きなんだ、愛しているんだと。Aのことは、人として好きなだけなんだと。
そう、俺はAのあの人間性に惹かれたんだ。だからこそ、彼女には以前の彼女を取り戻して欲しい。
「丸井と何かあったんだろう」
Aは一瞬びくりと肩を震わせ、未だこっちを向かないまま目を少し開いた。
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megumi(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます!登場人物達に寄り添ってお読み頂き、とても嬉しいです。沢山のお褒めの言葉と、作品を好いて下さり、ありがとうございます。これからも、執筆活動に勤しんでいきたいと思います! (2021年3月5日 18時) (レス) id: ba823ca860 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 他の作品と比べるのは野暮かもしれませんが、今まで読んだどの小説よりも心理描写が丁寧で登場人物に共感しまくりでした。きゅんきゅんしたり苦しくなったり感情の変化が忙しかったです。2つのエンドを見れたのも嬉しかったです。何回も読み直させていただきます。 (2021年3月5日 15時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - YUEMINさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けて、作者はとても嬉しいです(*^▽^*)応援に応えられるよう、頑張りたいと思います (2019年10月21日 18時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
YUEMIN(プロフ) - 完結おめでとうございます!楽しく読ませていただきました!!次回作も頑張ってください。応援してます。 (2019年10月21日 18時) (レス) id: 1af2bac581 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - ユッキーさん» いつも応援して下さり、ありがとうごさいました!沢山感じて頂き、嬉しく思います(^^)恋という感情は不思議ですよね。この作品を素敵と言って頂き、感謝です! (2019年10月14日 7時) (レス) id: b41fbb72a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月11日 22時