高校3年排球部、東京から来た宮城出身セッターです。

第38戦：悲願 ページ42

翌朝


「あれ、今日恭介１限目から授業だっけ？」

「ああ。困ったもんだよ、最近バレーまともにやってないからストレス溜まっててさぁ……」

はあぁ、と兄貴らしからぬ大きな溜め息。

家賃や光熱費もかかるし、聞いたところによると一番忙しい土曜日には4、5個のバイトをぎっちりつめているそうだ。

今日は金曜日だから確か夕方に二つと夜勤一つだった気がする。

どれも短時間だが重労働なものばかりのようだ。

流石にこの生活を三年もし続けていれば慣れてしまうようだが、顔色が良いところはあまりみたことがない。


それにあのバレー馬鹿の兄貴が、俺がこっちに引っ越す前からバレーを出来ていないと聞く。


「ヤバい、もう出ないと！これ弁当だから、足りなかったら購買かコンビニ行くんだぞ！」

「恭介っ！」




しまった




兄貴が急いでんのに、腕を掴んで動きを封じてしまった。


けど、俺の口から出る言葉は＿＿＿＿＿……









「あんまり、無理しないでくれ」



無理するなよ、じゃなくて。

まるで悲願するように小さく呟いた俺のか細い声は、兄貴にちゃんと届いたようで。


「………ああ、心配かけてごめんな」


頭を、撫でられた。


三年ぶりの、穏やかな温もりだ。


困ったような、でも嬉しそうな笑顔で兄貴は家を出た。









・









・









「おはようございまーす」

「おはようございます！」

後ろから聞こえてきた、可愛い後輩の声。

「はよー月島、山口！」

「…………？なんか、今日やけに機嫌良くありませんか？」

「確かに！なんか嬉しいことでもあったんですか？」

そう言ってから何故か「しまった」とでも言いたげな顔をした月島と、にこにこと答えを待つ山口。

「はは、まあな！いやー、俺の兄貴の恭介ってやつがさー、今日久々に撫でt…あ、いや、甘やかしてくれてさー！」

「！？」

はたと、目を見開いた月島。

その事に気づいた俺と山口は顔を見合わせる。

「…………え、あの、恭介って………」

挙動不審な月島を見つめながら、俺は脳内に？マークを浮かべる。

「うん、兄貴。大学生なんだけどなー」

「………………………その人多分、俺の兄の友人です」

！？

「え、アキテル君の！？」

どうやら月島のお兄さんは、俺の兄貴とよろしくやっているらしい。

「バイト先の友達の弟が僕の二年先輩らしいとは聞いてたんですケド、その、恥ずかしながら互いに弟の話ばっかしてるらしいです」







恭介、殴る。

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