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三十三話 ページ34





然し人の手料理など信用が出来ない。抑も、生まれてこの方誰かに料理を作って貰ったなんて事が無い。


「あぁ、毒とか盛ってないから安心してね」



そんな心情を察したのか毒の有無を知らせる女。

其れだけで安全とは云えないだろう。然し腹の虫は鳴り続ける。


それを見兼ねた奴が「太宰君に云うよ、"私の指示に従わない"って。彼の仕置きは辛いんじゃない?」と声を掛けられた。


…………これは太宰さんの為太宰さんの為太宰さんの為太宰さんの為太宰さんの為…………!!

暗示に近い其れを心の中で唱え続け、恐る恐る粥を掬って口に入れる。



「………………!」




久方振りの温かい食事が躰に染み渡る。


掻き込むようにして食えば生温い視線を向けられた。こっちを見るな。



食事を余り採ってこなかった所為だろうか、一杯分で僕は満足した。


するとまた奴は何か持って来た。次は何だと警戒していれば目の前に置かれたのは甘味だった。




「無花果が好きって聞いたから無花果のパイだよ、少食みたいだし食べられなさそうなら「食す」おぉ…」



思わず食い気味になってしまったが、好物が其処にあるのだから仕方無い。

そう、仕方無いのだ。先程腹が一杯だと云ったが嘘だ。



一切れ小皿に移し、そして口に運ぶ。

無花果の甘味と酸味が絶妙で、加えて生地の硬さが丁度良かった。



「…………美味」

「それは良かった。私が君の担当をする時は作るようにしようか?」

「……!!!」



其の悪魔的な提案に、ほぼ本能に近い感覚で身を乗り出した。……だからその目を止めろ。



「勿論、訓練その他諸々を終えた後になるけれど」

「構わん」

「うーーん情操教育が先か……?敬語とか大丈夫かなこれ……」


何か呟き乍ら食器を片付ける様子は無防備で、今なら勝てるのでは無いかとすら思えてくる。

 
……流石に食事を提供されておいてまで奇襲をかける気は起きぬが。


 

「……却説。今日は私は仕事が入ってないからね、幾らか書類こそあるけれど…君の教育と同時進行といこうか」





柔らかな表情とは裏腹に、些か淡々とした口調で今後の件を告げられた。






___かくして、芥川龍之介が尊敬し偲ぶ人物は二人となったのである。

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よんこいち(プロフ) - らなさん» コメントありがとうございます!お褒めの言葉励みになります…載せて良かった…本日も更新致しますのでどうそ宜しくお願いします〜! (6月1日 18時) (レス) id: f9c9e5d141 (このIDを非表示/違反報告)
らな - コメント失礼します…!!文ストと呪術のクロスオーバー大好きなのでめちゃくちゃ読んでいて楽しいです!!内容もしっかりしてて本当にすごいです…!更新楽しみにしてます!頑張って下さい!! (6月1日 17時) (レス) @page17 id: e0fbbf9247 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:よんこいち | 作成日時:2023年5月29日 21時

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