完全肯定 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:8,920 hit

05:/ ページ5

『あ、いらっしゃい』

一日ぶりに見る彼は、まあ、もちろん何も変わっていないが、少しだけ、顔が明るくなっているように感じた。

「お邪魔します」

「はいこれ、服、ありがとう」

『あ、どうもです』

『ねえなに？それ』

九条くんが手に提げている小さな袋を指さす。

「一緒に映画見ようと思って。借りてきた。」

『まじで？やった』

「どれ見たい？」

2人でソファに腰をおろし、DVDを広げる。

『全部見ようよ』

『んー、じゃあまずこれね』

1つを拾い上げてプレイヤーに差し込む。

私がリモコンを操作しているとじーっと顔を見られているのを感じた。

『な、なに』

「いや、そういうとこ、」

「かわええなって」

『え？な、なに？なんで急に褒めるの？』

「そういう気分」

『なにそれ、』

『ねえ、九条くんってさ、そういうの、誰にでも言っちゃうの？』

「Aだけやで」

「って、言ってほしいん？」

『え、い、いや、別に』

「Aこそさあ、誰でも家あげるん？」

『わ、私は九条くんが初めてだよ、誰か家にあげたの』

「ふーん」

自分から聞いたくせに、興味が無さそうにスマホをいじり始める。

九条くんは、なかなかずるい。

「そういえば飲み会楽しかった？」

『うーん、まあ、そこそこ』

『あ、でもベロベロになるまで飲んじゃって先輩に家まで送ってもらっちゃった』

「はあ？」

『なんで怒ってんの』

「その先輩男？女？」

『男』

「はああ？」

『だからなんで怒ってんの』

「なあこれからは酔っ払ったら僕呼んで、迎えに行くから」

『え、なんで？』

「なんでも」

『別に大丈夫だよ友達送ってくれるし』

「先輩も友達に含まれるん？」

『そうなる時もある』

「あかん、ぜっっったいあかん」

『なにがだめなの！』

「いろいろあんねん、いろいろ」

『いろいろじゃわかんないよ』

「はいはい、はよ映画見よ」

釈然としないまま映画が始まる。

頭に残ったモヤモヤは映画が始まってもしばらくは消えなかった。