完全肯定 (ページ2)

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「風呂ありがとう」

タオルで頭を拭きながら九条くんが出てくる。

『コーヒー飲む？』

「あー、僕コーヒー苦手やねん」

『へー、コーヒー飲めないんだ』

「飲もうと思えば飲めるで？」

『お茶にするから見栄はらなくていいよ』

「もうお茶とかええから風呂入りや。寒いやろ」

『お茶いれたら入る』

出会って間もないのにこんなに砕けて話せるのは、

出会い方が変わってるから？

うーん、

わからない。

『テレビ見てていいよ、あーでも今ニュースしかやってないか』

『録画見る？』

録画一覧を表示するとバラエティ番組が一気に並んだ。

「お笑い好きなん」

『まあ、うん、好き』

「僕、」

『ん？』

「いや、後で言うわ、」

『そう？じゃ風呂入ってくる』

「あ、そうや、名前。名前聞いてへんかった」

『Aです、名前』

「Aね、いってらっしゃい」

さっぱりとした気分で風呂から出るとリビングから九条くんの笑い声が聞こえてきた。

さっきまでずっと暗い顔をしていたから私まで幸せな気持ちになる。

とりあえずドライヤーだけ済ませて部屋を出た。

『何見てんの？』

「この前見れへんかったやつ」

『すごいよねお笑いって』

『しんどくても笑っちゃうじゃん』

「……」

「僕芸人やねん」

『え？』

「まだ一年目やけど」

『え、そうなん！？まじか、なんかめっちゃ恥ずいわ』

「僕は嬉しかったけど」

『そ、そう？』

『あ、さっき泣いてたのもそっち関係？』

「まあ、うん。なんか全然上手くいかんくて」

「M-1も1回戦で落ちたし」

『そっか、』

「いややろ、こんな話」

『ううん、全然。誰かに話すって大事なことだよ』

『抱え込みすぎたら壊れちゃうよ』

「……」

「僕ずっと不安でさ、このまま進んでっていいのかなとか、」

『大丈夫だよ、大丈夫』

『私には九条くんの辛さとかわかってあげられないから気の利いたこと言えないけど、でも、大丈夫だよ。九条くんなら』

何かが外れたようにぽろぽろと泣き出す九条くん。

それが何だか変に、生きてきた中で1番美しく見えた。