完全肯定 (ページ1)

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『傘、使いますか？』

「え、」

これが、九条くんとの出会い。

「え、えっと、」

『傘、無いんですよね』

『はいこれ、使ってください』

「あ、ありがとうございます」

夕立が来た夏の日、駅でぽつんと立っている青年に声をかけた。

それが九条くんだった。

傘を渡し、駅から徒歩1分の私のマンションまで走ろうと足を踏み出すと、腕を掴まれた。

「え、ちょ、なにしてるんすか」

『家近いから走ろうと思って』

「いや普通に傘使ってくださいよ」

『ほんとに近いから大丈夫です！』

「そういう問題ちゃいますって」

『いやほんとに大丈夫なんで！！』

「ほんなら僕も走ります！」

私の腕を掴んだまま走り出す。

「家どっちすか！？」

『みぎ！！！』

『あ、ここ！』

雨の中走っているうちにマンションについた。

2人で息を切らしながら顔を見合わせる。

『普通に2人で傘入れば良かったのに、』

「あ、ほんまや」

『なにしてんの私たち、』

そう言って顔についた水を拭いながら笑い合う。

『ねえそのままじゃ帰れないじゃん、君。』

『あ、名前。名前教えてよ』

「おがわ、あ、いや、九条です」

『？九条くんね、』

『風呂入ってく？風邪ひくよ』

「え、いや、帰ります、いろいろ良くないから」

『？』

「傘、借りますね。いつか絶対返すんで。」

『あ、ねえ、ちょっと待って、やっぱうち入んなよ』

『九条くん、さっき泣いてたでしょ』

「え」

『他人だから話せることもあるじゃん』

「……」

『ほらはやく入って』

エントランスに入って鍵を開けてエレベーターに乗る。

その間九条くんは何も話さなかった。

『ごめんね、散らかってるけど』

『はい、タオル』

「あ、ありがとう」

『風呂、入ってきなよ。服は洗濯機入れといて』

『あとこれ着替え、たぶんちっちゃいけど』

一応オーバーサイズのTシャツを選んだものの、それでもたぶん小さい。なんか異様に身長高いし。

「ありがとう」

そう言って風呂場に入っていく。

部屋に男の人がいるって、変な感じ。