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「…私を、探してた？」
どういうことですか？そう聞こうとした時、お爺さんはボタボタと涙をこぼし、畳に染みを作っていった。瞬きもせずに私を見ているその瞳から止め処なく流れる涙。驚いてお爺さんのすぐ側まで駆け寄り背中を摩るも、お爺さんの涙は止まることを知らない。いい大人が声を出しながら、瞳からこれでもかと言うくらいの涙を出し泣く姿は見慣れぬ光景すぎて言葉を失ってしまった。「泣くなよ、爺さん」なんて軽い口調でどら焼きを頬張りながら言う佐野に、お爺さんは「ありがとう」と何度もお礼の言葉を口にした。
「見苦しいところを見せて悪かったな」
「いえ、私は何も。あの…大丈夫ですか？」
「あぁ…いや、情けない。歳をとると涙脆くなってしまってな」
「お気になさらないでください。落ち着いたならよかったです。…あ、あのそれで…私を探してたっていうのは…」
「あぁ、ずっと探してた。…ずっとずっと、お嬢さん…いや、Aさんにお礼を言いたかった」
「…え？お礼？…私に？」
「…A、一旦こっちこい」
私の質問は佐野に声をかけられたことで、お爺さんから返ってくることはなかった。私を探してたと言うのはどう言うことなんだろうか。佐野の時もそうだったが私とこのお爺さんは、初見ではないのだろうか。一生懸命記憶を掘り返すも、やっぱり目の前にいるこのお爺さんは、今日が初めましてであり過去に会った記憶がない。でもだとしたら、私って普段どんだけボーッとしてるんだろう。佐野のことも覚えてない。目の前のお爺さんのことも覚えてない。…記憶力が乏しすぎる。
佐野は縁側に座り込み私を手招きする。とりあえず言われた通りに佐野の側までよって、隣にしゃがみ込み佐野の指差す方へと視線を向けた。
「A、あそこ…あそこ見えるか？」
「…あそこって……え、犬？」
「うん。A、あの犬知ってんだろ」
「え、あの子…」
庭には一匹の犬が気持ちよさそうに犬小屋のクッションの上でお昼寝しているのが見えた。なんとなく見たことがあるその子に、置いてあったサンダルを借りて近づき間近で見る。
「…この子は……」
「知ってんだろ？」
「…知って、る」
近くで見た犬の顔も、薄汚れたいかにも手作りの首につけられた首輪も、変形して少し変な方向に曲がってしまっている前足も、全て見覚えがあった。
私はこの子を、知っている。
私はこの子を、知っていた。
続く
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knnk99(プロフ) - 麗さん» 麗様 ご指摘ありがとうございます！変換ミスしていましたね…読みづらく申し訳ございません。修正させていただきました！他も確認次第修正していきます。こんな小説にもったいないお言葉本当に嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。 (2021年8月2日 18時) (
レス) id: d08a794dcd (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 6ページなのですが、無償に ではなく 無性に ではないかなと、、、 余談ですが、お話好きなので完結まで着いていく所存です！ (2021年8月2日 18時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柴咲華 | 作成日時：2021年8月2日 2時
