Screw Driver【佐野万次郎】

001 ページ1

「アンタろくな男と付き合ってないだろ」



公園のブランコで1人錆びた鉄の音をキーキー鳴らしながらぼーっとしていたときに頭から降ってきた声だった。低くもなく高くもない、ちょうど耳にスーッと入ってくる音。私の前に立ち、私を見下ろし、どら焼きを頬張りながら初対面の彼は言った。
あまりにも綺麗な顔立ちと眩しすぎる金色の髪をした彼に目を奪われ反論の言葉は出てこなかった。

しばらくぽけーっと彼を見つめてるだけの時間がすぎ、彼もまたモグモグと咀嚼を繰り返しながらもじーっと私をみてくる時間がただただ過ぎた。そして興味なさげに「うん、絶対ろくな男じゃねえな」残ったどら焼きを全て口の中に放り込み彼はもう一度そうつぶやいた。え、なにこの人。え、だれこの人…。
その疑問は今度はシンプルに言葉にできた。



「え、だれ…ですか」


「だれ？なにそのくだらねー質問。オレが誰とかどうでもよくない？」


「…は？え、な、なんなんですか…」


「アンタみたいな女が何でクズみたいな男といるわけ？」


「ちょ、クズって…なんなんですか？失礼じゃないですか」


「知らねーよ。興味本位で聞いてるだけだし」


「…興味本位って…意味わかんない。あなたには関係ないでしょ」



絡まないでよ。どっかいってくれないかな。そう思いながら冷めた静音でバッサリ会話を切った。
そもそも初対面の人間に対していう言葉じゃない。初対面の人と話す時は、まず名を名乗り要件を話しそれがマナーだと思う。初めに口を開いて出した言葉が、ろくな男と付き合ってないとかあり得ないと思う。未だかつて初対面の人にそんなこと言われたことはないし、初対面で私の発言をオールシカトして自分のペースで話をしてくるなんてゲスのナンパ野郎だけ。でもこれはきっと、いや確実にナンパの類ではない。もしナンパだとするならば彼は素質がなさすぎる。逆に女子が思わずついていきたくなるようなナンパトークを伝授してあげたいほどにナンセンス。
初対面なんだからあなた誰？という質問は至極普通の質問なのにくだらねえの一言で切られ、そして挙げ句の果てに私の付き合っている相手のことを「クズ」という。あり得ない。

...→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す