3話 ページ3
「いいぞ、惚れる?惚れる?」
「惚れません。それに、大田さん彼女くらい居るでしょう……。こんな夜に彼女でもない女と喋ってて、私背中から刺されるとか嫌ですからね」
「彼女いねぇよ、俺」
「マジですか?……好きな人でも居るんです?」
私が他人に言われて苦痛だったことを聞くなんて、私は中々いい性格をしている。缶のプルタブを開けて、アイスコーヒーを喉に流し込んだ。
大田さんは、私の隣のデスクにドカリと座り込む。そこ、貴方の席じゃないんですけど。
そのまま何も言わない大田さんに頭を傾げていると、
「お前ってさぁ……、恋愛ってなんだと思う?」
「恋愛……ですか?」
哲学的なことを私に聞かれても困る。そもそも恋愛なんて知らないのだから。知ろうとしても分からなくて、諦めた私には。唇を震わせて、模範解答と思われる言葉を必死に探す。
傍に居たいと願うこと?
相手の為に尽くすこと?
相手と居ると幸せなこと?
相手と将来を添い遂げたいと思うこと?
色んな言葉が出てきて、それを声にしようとして、やめた。どの言葉も、私が使い古した偽物。それに、こんな嘘をつくのは久しぶり過ぎて、吐き気がする。知らない物をさも知っているかのように話すなんて、気色が悪くて仕方がない。
「……なんでしょうね、私が知りたいですよ。そんなの」
コーヒーのカフェインにでも酔ったのか、私はそんなことを呟いていた。自分で驚くくらい、自嘲的な声だった。
「俺ってさ、モテるじゃん」
「……は」
急に何を言い出したんだこの男は。今までの空気をぶち壊してることに、彼は気づいてるのだろうか。そう思いながらも、次の言葉を待つ。声が、迷い子のようだったから。
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作者名:梅干し茶漬け | 作成日時:2021年8月11日 20時