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1話 ページ1

誰かを好きになる、という事がなかった。この人優しいな、この人、気強めだな、とか、友達としては好き。そういう感情はあったけど、恋愛対象として誰が好き、と問われると何も答えられなかった。

私には誰も釣り合わない!などという自惚れではなく、ただ単に、好きにならない。それだけ。私にとって、それが当たり前だった。けれど、世間一般はそうじゃなかったらしい。


「Aさんって、好きな人とか居ないの?」


きっと、こんなふうに聞いてきた人に悪意など全くないのだ。ただの話のタネであって、それに私が勝手に傷ついてるだけ。

学生の頃は本当に大変で、結局私がどうしたかというと、周りと合わせることだった。

適当にそれっぽい人を見繕って、話を振られたらその人のことを話す。でも、その言葉は私のものじゃない。小説に書いてあったような言葉で、恋愛ソングの言葉を借りて、偽物の言葉を笑顔で吐き出し続けた。



皆が格好いいって頬を染めるアイドルを見た。確かに顔は格好いいな、と思った。それだけだった。

恋愛雑誌を読んだ。何一つ共感できなくて、読んだことを後悔した。

沢山の少女漫画を読んだ。読み物としては面白かったけど、何も思わなかった。



きっと私は、恋愛ができない。人をそういう対象として好きになれないなんて、私には大事な何かが足りないみたいだ。人として当たり前の感情を、私は理解できない。


好きになれるように、努力した。
でも駄目だったんだよ、仕方ないじゃん。
そうやって強がって生きてきた。

でもやっぱり、人を好きにならないのはおかしいみたいだ。


そんなふうに思い悩んで8年程、私は立派な社会人5年目。有り難いことに大手の企業で働かせてもらっている。仕事は好きだ。それをしている間、他に何も考えなくて済むから。

2話→



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作者名:梅干し茶漬け | 作成日時:2021年8月11日 20時

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