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「拓哉さん、だいじょ…うわ、っ」
合鍵で鍵を開けて部屋に入ると、明かりの着いていない部屋で、拓哉さんがぺたりと座り込んでいた。
「A、」
くるりと振り返った彼の顔は、縹色とは言わないまでも白菫色で、血色がない。ああ、なんでもっと早く来なかったんだろう、と過去の自分を恨んだ。
几帳面な彼らしくない散らかった部屋。シンクには使った形跡もなく、転がっているのは水のペットボトルだけ。…重症だ。
「今日、は…どうしても、だめな日で」
仕事も休んで1日家にいたけれど、尚更不安が増すばかりで、どうしようもなかったらしい。
「大丈夫ですよ」
以前のように強がらないで、助けを求めてくれるようになっただけ進歩だと思う。冷えきった彼の手を包み込むと、じんわりと体温が伝わっていくのが分かる。
「ごめん、仕事あったでしょう…？」
「明日やれば間に合いますから」
仕事よりも拓哉さんの方が大切です。そうきっぱりと言い切ると、彼はきゅうと眉根を寄せた。迷惑をかけたことに変わりはないのだと言わんばかりだ。
「すてない、で」
ふいに、私の袖を掴んで拓哉さんが私を見つめた。目の奥に不安の色が窺える。
「捨てたりしませんよ」
ぴたりと彼の目を見据えると、彼は震えた唇で縋るように私に口付けた。紅梅色のリップが彼の唇に移る。
「よか、った」
そうして漸く、彼の顔に薄桜色の血色が灯る。カタカタと震えの止まらない彼の手を取り、私はするりと指で撫でた。
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拓哉さんの寝息が聞こえるまで、私は傍を離れなかった。やがて空が白んで、カーテンの隙間から朝日が差すまで、彼は私の手を離すことはなかった。
「A…おはよう」
ふうわりと微笑む彼の目には、安堵の色が浮かんでいた。
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花の名前がついた色をモチーフにしました。
女郎花色 緑っぽい黄色
縹色(花色) 強い青
白菫色 白に近い紫
紅梅色 紫がかった紅色
薄桜色 紅がかった白
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作者名：エリッサ | 作成日時：2021年1月7日 19時
