想色、添う色/kwmr ページ35
*
2週間くらい、忙しい日々が続いていた。年度末だということもあって、立て込んでいたのだと思う。だから、拓哉さんと会うことも出来ていなくて。
今思えば、2週間も連絡が来ない時点で彼の家に行くべきだったのだ。きっと彼も忙しくて連絡する暇もないんだろうな、なんて思っていたけれど、私はもう少し慎重になるべきだった。
----------------
その日は全く仕事が終わらなくって、これは終電コースだと諦めた日だった。コンビニで買ってきたエナジードリンクを片手に、眉間に皺を寄せ、パソコンと睨みあっていた。
11時を回った頃、突然スマートフォンが鳴った。
「…拓哉さん?」
変だ。こんな夜に電話してくることなんて滅多にない。そもそも彼が電話をかけてくるのは、急用があるときだけなのに。
仮にも勤務中なので出ようかどうか悩んで____悩んだ挙句、スマートフォンの画面をタップした。
「拓哉さん、どうかしたんですか?」
『……A』
「はい」
通路に出てスマートフォンを耳に当てると、弱々しい声で彼が私の名前を呼んだ。切れかけた女郎花色の電球が、私の顔を照らす。
『きて、くれませんか』
「え、」
数瞬、息が止まった。どんなに体調が悪くても、辛くても、強がってしまう拓哉さんが、私に来てくれなんて言ってくれたのは初めてだった。
「今から、行きます」
仕事はまだ少し残っているけど、明日やれば間に合うはず。ちらりとデスクを一瞥して、私は頷いた。
ぷつり、と無言で電話が切れた。それはあまりにも急で、倒れた時の彼の縹色に青ざめた顔が頭をよぎる。
持ち帰れそうな資料だけを引っ掴んで、私はオフィスを飛び出した。
98人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時