覆水の刺繍盆に返らず/fkr ページ14
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年下って得だと思う。可愛がってもらえるし、頼れる人がたくさんいるのはありがたいから。ライターの中でも私は若い方で、オフィスに行くと
「記事の校正手伝うよ」
「お菓子食べる?」
なんて、可愛がってくれる人も多い。さっきもこうちゃんさんが飴をくれたし、コンビニに行くと須貝さんが奢ってくれたりもする。オフィスに来る度に餌付けされてるような気もするけど…まぁいっか。
「ご機嫌だねぇ、Aさん」
大好きな桃の飴を舐める私に、目を細めて福良さんが笑った。微笑んだその瞳の奥で、何を考えているのかちょっと分からないのが福良さん。
笑顔は素敵なのに、なんだか信用ならないような、それでもやっぱりかっこいいよね、なんて思ったりもする。
「そーですか?」
「俺にはそう見えるよ」
こんな他愛ない会話でさえ楽しい。憧れの人と話すのは、まだまだ緊張するけど胸が踊る。
「福良さん、」
キーボードを操作する手を止めて体ごと彼の方へ向き直ろうとしたとき、手元の紙コップが倒れてぱしゃりと水が零れた。
「あ、ごめんなさい、」
咄嗟に鞄の中を探したけれどハンカチが見つからない。今日に限って忘れてきたのかもしれなかった。女子力ないな、私。
「大丈夫?これ使っていいよ」
はい、と福良さんが差し出してくれたのは青い花の刺繍が入ったハンカチだった。福良さんらしくないと言ってしまえばそれまでだが、どちらかと言うと女子っぽいハンカチ。…違和感。
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作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時