名と自覚にて/ymmt ページ46
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｢山本さん、｣
｢…｣
｢山本Aさん？｣
フルネームで呼ばれ、そこでやっと顔を上げた。怪訝そうにこちらを覗いた看護師さんが、私の顔を見てクスリと笑う。
｢新婚さんだと、まだ慣れないですよね｣
私もそうだったんですよ、と微笑んでくれた彼女の笑顔がとっても素敵で、私もあんなふうにいい奥さんになれるのかしら、なんてぼんやりと考えた。
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職場では下の名前で呼ばれることが多いし、結婚してからも旧姓で仕事をしているせいで山本という苗字にどうにも慣れない。
私にとってソレは、彼を象徴するものであって私ではないのだ。彼を下の名前で呼ぶのに時間がかかったせいなのか、苗字の印象が強いみたいだった。
｢A…まだ苗字慣れないの？｣
つけっぱなしになっていたテレビをザッピングしながら、よしくんがこてりと首を傾げる。飲みかけのココアをテーブルに置いて、彼の隣にストンと腰を下ろした。身長はあまり変わらないから、頭をもたげても平気。すりすりと頭を押し付けて甘えると、彼の手が私の頬を撫でた。
｢せっかく山本さんになったのに、｣
｢恥ずかしいし変な感じするんだもん｣
そりゃもちろん慣れた方がいいに決まってるけど。今までと違う苗字で呼ばれるのは、恥ずかしし胸がきゅうと締め付けられる気分になる。それが大好きな人の苗字なのだから、恥ずかしさは尚更で。
納得いかないのかむぅ、と唇を尖らせて、私の頬を撫ぜた手が今度は前髪を寄せた。
｢僕の奥さんってことちゃんと自覚してよ｣
僕の、を強調して言うものだから、思わず息を飲んだ。ああそうだ、この人独占欲強いんだったっけ。
ちゅ、とリップ音がして、私の額に唇が触れる。いつもならそれで終わりなのに、今日は違う。額から頬、首、鎖骨と彼の唇が私を擽った。身を捩っても、手で胸を押さえても、私の抵抗は虚しく絡め取られてしまう。
｢…好きだよ｣
結婚して変わった苗字は、よく見える最大の独占欲。最後に唇にキスを落として、頷いた私に彼は満足そうに微笑んだ。
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てんしゅ(プロフ) - 初めまして。いつもドキドキしながら読ませていただいております。｢香りにキスして｣の煙草はアークロイヤルのパラダイスティーかな？と想像しました。自分もアークを吸っているのでにやにやしてしまいました。これからも応援してます。 (2020年12月7日 20時) (
レス) id: 02b4360ac3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エリッサ | 作成日時：2020年9月26日 13時
