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名前が増える、愛ゆえに/sgi ページ44

*

「保険証お返ししますね」

どうぞ、と受付の女性が私の保険証をカルトンの上に乗せた。

「ありがとうございます」

それを手に取って、もう一度待合室のソファに腰を下ろす。保険証を握る手は震えていて、指先はほんのりと冷たい。緊張していた。

ひとりで病院に来るのなんて、今更なのに、今日の私と来たら、身が縮こまってしまっていた。

「こんなんじゃ、駿貴くんに言えないよ…」

すり、と親指の腹で保険証の『須貝A』の文字をなぞった。こんなところで緊張していたら、家に帰って彼にどんな顔をして会えばいいのか分からない。

きゅ、と拳を握りしめる。オルゴールのBGMが唯一
気を紛らわす方法だった。







ガチャ、と玄関の鍵が開く音がして、俺は手に取ったコップをテーブルの上に戻した。

「…A?」

いつもだったら『ただいまぁ』と間延びした声が聞こえてくるはずなのに、今日はそれがない。どころか、物音ひとつしなかった。

……何か、あったのか。返事のないのが余計に不安を煽る。ごくりと喉が鳴った。

しかし心配して玄関まで出てみると、靴を履いたままの彼女が俯いて立っていた。悲しい雰囲気ではなさそうで、少しだけ安堵する。


「どうしたの」

「駿貴、くん」


俺を呼ぶやいなや、彼女はバッグを放り出して俺にぎゅっと抱きついた。こんな細い腕のどこにそんな力があるのか、というくらい強く。

随分熱烈なハグじゃん、なんて言いかけて、思わず口を塞いだ。俺を抱きしめる手が、震えていた。

「…A、一旦落ち着け」

サラサラの彼女の髪を撫で、靴を脱がせた。放り出されたバッグも拾って、今にも泣き出しそうな彼女に毛布を渡す。

温かいハーブティーを入れたマグカップを手渡すと、彼女はそれを手に取って、何かに気づいたように口を付けずにテーブルの上にコトリと置いた。

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てんしゅ(プロフ) - 初めまして。いつもドキドキしながら読ませていただいております。「香りにキスして」の煙草はアークロイヤルのパラダイスティーかな?と想像しました。自分もアークを吸っているのでにやにやしてしまいました。これからも応援してます。 (2020年12月7日 20時) (レス) id: 02b4360ac3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:エリッサ | 作成日時:2020年9月26日 13時

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