心配ご無用揃えて愛/ko-chan ページ31
*
「ねえ航平まだー？」
『ごめん、もうちょっと…』
「もう…」
電話越しの声はひどく焦っていて、急かすのがほんの少し憚られる。だけど待ち合わせの時間からもう10分近くたっていて、急かさずにはいられなかった。
普段遅刻するようなタイプじゃないのに、珍しい。それも遅れるという連絡が来たのも待ち合わせの時間ギリギリで、寝坊したのかなあ、なんて想像してしまう。
久しぶりのデートに、寝坊なんてするのかな…でも、仕事場が同じせいで毎日のように顔を合わせていると、新鮮味がなくなってマンネリ気味になってしまうのかもしれない。
航平が、私に飽きてたら、どうしよう。ぎゅ、と拳を握りしめるとお揃いの指輪が陽の光に反射してキラリと光った。…ううん、そんなことあるはずない。
「ごめん、お待たせ」
大丈夫、心配ないと自分を納得させていると、彼が息を切らせてやって来た。変に思われないようにと咄嗟に曇った表情を戻す。
「えっ」
顔を上げ、思わず、声が出た。航平が着ているその服は、私とお揃いだった。お揃いというか、正確には色違いなんだけど。
「あ…A、どうかな？」
お揃い、嫌だった？小首を傾げて苦笑いする彼に、私は目をぱちくりさせるしかなかった。だって、色違いの服を買ったなんて知らなかったから。
「びっくり、した」
口元に手をやり、きゅ、と反対の手でスカートを掴んだ。まさかペアルックでデートをする日が来ようとは、夢にも思わなかった。
「久しぶりだから、こういうのもいいかなと思ってさ」
いつかペアルックをしたい、と思って買った服はクローゼットにしまったままだったらしい。それで着ようと思い付いたのが今朝で、色々準備してたら遅れちゃったんだ、と彼は申し訳なさそうに眉根を寄せた。
「すごく、うれしい」
私もペアルックはしてみたいと思ってたから。でも、なかなか言い出せなかったのだ。
「Aに喜んでもらえるようにいっぱい考えたからさ、楽しみにしててよ」
得意気に胸を張ってそういう航平の笑顔は、すごく輝いて見えた。この笑顔が好きなんだなあって、再認識する。
「じゃあまずは遅れたお詫びにジュース奢ってもらおうかなあ」
「えぇ…」
ほら行こう？と手を差し出すと、彼がするりと指を絡ませた。きゅっと握った手の温かさに、マンネリ化なんて全く感じない。
空は落ちてこないけど、小春日和の日差しが燦々と降り注いでいた。
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てんしゅ(プロフ) - 初めまして。いつもドキドキしながら読ませていただいております。｢香りにキスして｣の煙草はアークロイヤルのパラダイスティーかな？と想像しました。自分もアークを吸っているのでにやにやしてしまいました。これからも応援してます。 (2020年12月7日 20時) (
レス) id: 02b4360ac3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エリッサ | 作成日時：2020年9月26日 13時
