狡い匂い、好きじゃない/sgi ページ21
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焼肉デートは好きじゃない。だって服に匂いがついちゃうし、焼くのに気を使うのが苦手だから。それなのに定期的に行ってしまうのは、もちろんこの人のせいだった。
「A、食べないの?」
トングを片手に、駿貴くんが小首を傾げる。焼肉好きじゃないなんて言いづらくって、ずるずると絆されて連れてこられて、もう何回目だろうか。
「…食べる」
別に不機嫌なわけじゃないけど、つっけんどんな態度をとってしまうのは、あまのじゃくな私の性格のせいだ。
嫌いじゃない、あくまで好きとは言えないだけ。だけどだけど、気乗りがしないのは確かで。
「なんかあった?」
俺でいいなら相談乗るぞ?私の機嫌が悪く見えるのは、何か嫌なことがあったからだと思ったらしい。
「なんでもないよ!」
精一杯明るい声で、笑顔を作る。彼はとりあえず納得してくれたみたいで一安心だ。
「ん、なんかあったら言えよ」
「はーい」
微笑んで、また肉を焼く。焼けるのを今か今かと待っている様子は、年上なのに年下に見えてしまうくらい無邪気で幼い。
「うまいなあ」
肉を頬張って、駿貴くんが満面の笑みで笑う。うう、この笑顔には弱いんだよ私。
「なあ、また来ような」
「…うん」
しまった、また約束しちゃった。…でも、彼の笑顔が大好きだから、これもまあいいかなんて思ってしまう。
「ずるいよ…」
最後には結局許しちゃうんだから、ほんとにずるい。意味もなくぺちりと彼の手を叩いて、せめてもの反抗をみせたけど、私の手はするりと絡め取られてしまった。
焼肉の匂いのする服に抱きしめられるのも、満更でもないのかも。ほんの少し口許が緩んでしまったのは、ナイショにしておいて。
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てんしゅ(プロフ) - 初めまして。いつもドキドキしながら読ませていただいております。「香りにキスして」の煙草はアークロイヤルのパラダイスティーかな?と想像しました。自分もアークを吸っているのでにやにやしてしまいました。これからも応援してます。 (2020年12月7日 20時) (レス) id: 02b4360ac3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エリッサ | 作成日時:2020年9月26日 13時