→ ページ20
*
僕が理由を問うた途端、彼女は言い淀んだ。それでもぎゅっと唇をかみしめて、もう一度僕を見る。
「河村くん、に」
そこまで言って、また言い淀む。言いたくないであろうことを言わせてしまっているが、このままはいそうですかという訳にはいかなかった。
「…好かれ、たくて」
数瞬の間。思わず目を見開いた僕に、Aさんは口元に手を当てて笑った。
「煙草…好きじゃないでしょう?」
だからまずは禁煙しなきゃって思ったの。バツの悪そうにポーチを握りしめた彼女の表情は、なんだかとても悲しそうになっていた。
「Aさん、煙草咥えて」
少しだけ躊躇ってから、彼女はおずおずと煙草を咥えた。その間に僕も1本拝借して咥え、そっと火をつけた。
煙草を吸うのは何年ぶりだろう。少し咳き込んでしまったけど、2本でギブアップしてしまったあの頃よりも、不思議と嫌ではなかった。
彼女に近寄ると、足元のアスファルトが音をたてた。咥えた煙草を彼女のに押し当て、吸えと目配せをする。
ジリ、と火がついて、煙が上がる。びっくりした顔の彼女は、耳を赤くして噎せた。
「…もう、とっくに好きですよ」
煙草を吸うあなたが。言葉の出なくなってしまった彼女が咳き込んで、僕は笑った。
紅茶の匂いの煙が、僕達を包んでいる。ちょっと距離が近づいた。煙が重なるまで、あと少し。
127人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
てんしゅ(プロフ) - 初めまして。いつもドキドキしながら読ませていただいております。「香りにキスして」の煙草はアークロイヤルのパラダイスティーかな?と想像しました。自分もアークを吸っているのでにやにやしてしまいました。これからも応援してます。 (2020年12月7日 20時) (レス) id: 02b4360ac3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:エリッサ | 作成日時:2020年9月26日 13時