纏う香りにノックアウト/izw ページ17
*
人の顔を覚えるのは得意じゃない。クイズになれば話は別だが、それでも苦手だ。
だから、その人の特徴だけを覚える。そうすれば次にあったときに知識とか記憶を引っ張り出しやすいから。…ただ、あの人の場合はそれが香りだった、というだけだ。
「伊沢さん！」
「あ、Aさん」
俺を見つけて、パタパタと笑顔で廊下をかけてくる彼女は、印象的な香りの人だった。
「お疲れ様です、今から収録ですか？」
柔らかく微笑むその姿は可愛らしいが、清楚な雰囲気の出で立ちだ。ふう、と息を整え、彼女はファイルを胸に抱えて俺を見上げた。
「いえ、今終わったところです」
「そうなんですね！オンエア楽しみにしてます」
伊沢さんのおかげでクイズ番組色々と見るようになったんですよ、と得意げに教えてくれた。クイズ王冥利に尽きる。
「あの、この後って」
「Aさん！こっち手伝って！」
ひょっこりとドアから顔を出した男性が、彼女を大声で呼んだ。
「すみません伊沢さん、私これで失礼します」
ぺこりと申し訳なさそうに頭を下げて、彼女はまた廊下をかけていってしまった。
今日も誘えなかった。彼女を食事に誘おうとしているのに、毎回何かしら上手くいかない。恋愛偏差値が低すぎる俺には、何よりも難しい問題だった。
「はぁ…」
タクシーを降りて、とぼとぼと帰路に着く。いつになったら上手くいくのか、よくよく考えなければならない。
「あ、シャンプー買わないと」
くるりと踵を返して、元来た道を戻ることにする。ああもう、先に買っとけばよかった。
帰ったら資料確認して、明日の会議の用意しないとなあ。なんて考えながら、いつものシャンプーを手に取ろうとして、隣に並ぶ青いシャンプーを手に取った。
すん、と匂いをかいで、棚に戻す。どこか知っているような気がしたのだけど、気のせいだったのか。
「あ、」
Aさんだ。今し方会話した、彼女の香りと同じだった。初めて会った時に、香水じゃないシャンプーの香りが特徴だと覚えたんだっけ。
そのあとレジに行って会計を済ませたのだけど、そんなことは覚えていなくて、気付けば家で、レジ袋には彼女と同じシャンプーが入っていた。
「……何やってんだよ、俺」
中学生みたいなことをした自分に、思わずため息が出た。シャンプーの封をあける。ふわりとシャンプーの香りに乾いた苦笑いをかける外なかった。
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てんしゅ(プロフ) - 初めまして。いつもドキドキしながら読ませていただいております。｢香りにキスして｣の煙草はアークロイヤルのパラダイスティーかな？と想像しました。自分もアークを吸っているのでにやにやしてしまいました。これからも応援してます。 (2020年12月7日 20時) (
レス) id: 02b4360ac3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エリッサ | 作成日時：2020年9月26日 13時
