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「拓哉さん、覚えてたの」
僕が渡した箱の包みを開けると、Aさんは驚いたように目を丸くした。引っ張り出した記憶が間違っていなかったことに安堵する。
「ほしいって、言っていたから」
「…嬉しい」
選んだプレゼントはマグカップ。福良が恋人と同じものを使っていると話していたときに、彼女はほしいと零していた。お揃いのそれを眺めて、彼女はは目を伏せ、ゆっくりと微笑んだ。
「あと…これも」
用意していたものを取り出すと、彼女はまた目を丸くした。さっき以上に。
「えっ」
「伊沢が、記念日なら花束の1つでも渡さないとって」
これは言い訳なんかじゃなくて事実だった。そういう話を伊沢とすることはほとんどないけれど、プレゼントを調べていたら声をかけられた。大して恋愛経験もないのに、よく知ったようなことを言うやつだ。
「Aさん?」
花束を見つめて、彼女が俯いた。ぎゅ、とスカートを握りしめている。
「おも、かった?」
伊沢に言われたとはいえ、花束を渡すような柄じゃないし、そもそもそんな気の利いたことは出来ない。恋愛下手だからこそ、慎重にいったつもりだったのに。
「びっくり、したのと…うれしくて」
顔を上げた彼女の目には薄らと涙が浮かんでいた。仕事と体調のせいで色々心配をかけたから、久しぶりに会えたというのもあるのかもしれない。
「これからも、よろしくお願いします」
ふわりと微笑んだ彼女を見つめ、プロポーズしたらこんな風なのかと想像を膨らませた。
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私の中で河村さんは恋愛下手で重い人なので、記念日に何渡すか迷う人だろうな、と思って書きました。
でもその分きっと素敵なプレゼントになるはずです。
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てんしゅ(プロフ) - 初めまして。いつもドキドキしながら読ませていただいております。「香りにキスして」の煙草はアークロイヤルのパラダイスティーかな?と想像しました。自分もアークを吸っているのでにやにやしてしまいました。これからも応援してます。 (2020年12月7日 20時) (レス) id: 02b4360ac3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エリッサ | 作成日時:2020年9月26日 13時