フラップで覆う愛 (ページ36)

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泣き濡れるchat/kwmr ページ36

天気予報を裏切って降り出したにわか雨。念のために、と持ってきた折りたたみ傘は些か私には小さかった。

こんな日には温かいコーヒーでも飲んでテレビを見るに限るな。水溜まりを避けながら、それでも小走りに急いでいると、シャッターの降ろされた軒先で、人が蹲っていた。

「お兄さん…大丈夫？」

もしかしたら私よりも細いかもしれないその人は、ゆっくりと顔を上げ、私を見つめた。彼は傘を持っていないらしく、ずぶ濡れだった。寒さに震える青白い肌が綺麗だった。

「えっと…傘、貸しますよ」

私の家はもうすぐそこだし、走っていけばそんなに濡れることはないだろう。それよりもこの人がこれ以上濡れたままなのはいただけない。

男性には可愛らしすぎるピンク色の傘を手渡して、帰りを急ごうと踵を返す。走り出そうとしたまさにそのとき、くい、と私のブラウスの袖が引っ張られた。

振り返ると、眼鏡の奥の瞳が私を捉えていた。突然の行動に、どうにも言葉が出ない。

「うちに、来る？」

今思い返しても不思議だけど、私の口をついて出た言葉はそれだった。見ず知らずの、傘を貸しただけの人を、自分の家に誘っていた。

彼は一瞬驚きに目を見開いたが、どうにか精一杯、というように無言で小さく頷いた。