フラップで覆う愛 (ページ34)

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誘惑の休日/fkr ページ34

たまの休日、家でのんびりするのもいいけれど出かけようか、と言い出したのはインドア派の彼女の方だった。俺の仕事が忙しいのもあって、一緒に暮らしているわりにきちんと顔を合わせる機会が少なくなっていた。

11時ぐらいに家を出ようかと言っていたのに、約束の時間はとうに過ぎている。きっちりしていて時間に正確なAが、珍しく準備に時間がかかっているらしい。

「あとどれくらいかかるのー？」

「もうちょっと！」

このやり取りも実は3回目だったりする。何かあるのかと見に行こうとすると『拳は来ちゃだめ』となかなか真剣なトーンで言われてしまうので、こうして大人しく待っているのだ。

その後もてきとうに動画を見たりSNSをチェックしたりしていると、Aが申し訳なさそうな顔で部屋から出てきた。

「準備できた？」

「いや…それが…」

どうかしたのかと首を傾げて見せると、どこか気まずい感じの彼女はしばらく思案したあと、きゅっと真一文字に結んだ口をゆっくりと開いた。

「お願いが、あるんだけど」

そう言ってくるりと彼女が背を向けた。清楚な紺色のワンピースの背中に、ジッパーが閉じかけだった。

「がんばったんだけど、手が届かなくて…」

振り返りながら彼女が苦笑する。『やってくれる？』とそんな格好で言われて、久しぶりにぐっと来た。

細く綺麗な髪を巻き込まないようにそっとジッパーを閉じてやる。心做しか彼女の項がピンク色に染まっていて、無性にキスを落としてやりたくなった。

「最初から頼んでくれればよかったのに」

こんなことでそんな何分も格闘せずとも、俺を呼んでくれたらいいだけだ。なのにAは俺の言葉にまた苦笑いを浮かべた。

「背中のジッパー閉めて、なんて…誘ってるみたいで恥ずかしかったの」

付き合ってもうしばらく経つし、彼女のしなやかな背中を見たことも1度や2度のことではない。しかし今更どうしたんだ、というくらい彼女は耳を真っ赤に染めていた。

「…A」

名前を呼んでこちらを向かせると、彼女は恥ずかしさに目を逸らした。その肩を抱き寄せて、そっと額にキスをする。

「今日は出かけるのやめにしようか」

「え…？」

「スイッチ入っちゃった」

「ちょっと、拳」

待って、と彼女が言うよりも速く唇を塞いでしまう。誘ったのは君なんだから、責任取ってね。
お天道様の高いうちからだとしても、きっと仕方ないって言ってくれるよ。