フラップで覆う愛 (ページ4)

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卒業式が終わっても、私はずっと泣いたままだった。流石にクラスメイトが心配して声をかけてくれて、ようやく私は泣き止んだ。

卒業式が終わったとはいえ、最後に須貝先輩に会いに行かないと私の青春は終われない。あわよくば第二ボタンがほしい。

急いで先輩のクラスに行くと、私に気付いてすぐに来てくれた。

「A、目真っ赤じゃん」
「ちょっと泣きすぎちゃって、」

花粉症なんです、と誤魔化してもよかったけど流石に無理がある。仕方なく正直に言うと、ずいぶん涙脆いなあ、と笑われた。

ふと先輩の胸元に目をやると、第二ボタンだけがなかった。

「先輩、第二ボタンどうしたんですか」

急いで来たつもりだったけど、他の女の子が貰っていってしまったのか。それとも先輩からあげるような女の子がいたのか。止まっていた涙がまた溢れそうになる。

すると須貝先輩は、人差し指を唇に当てて私の手に何かを握らせた。消えたはずの第二ボタンだった。

「東大、受かったらさ」

恥ずかしそうに頭を掻きながら須貝先輩が微笑んだ。

「またちゃんと言うから、それまで持っててくれない？」

初めて見る先輩の真っ赤な顔は、それはとてもかっこよかった。はい、と返事をするつもりが上手く声が出なくて、私は小さく頷いた。

*

言われた通り、私は従順に須貝先輩を待った。寂しいと思う時もあったけど、その度に第二ボタンを眺めて私も頑張ろう、と気合いを入れ直した。先輩から預かったボタンは、私の大切なお守りだった。

そしてまだ少し寒さの残る次の年の春、須貝先輩は宣言通り私を迎えに来てくれた。

「もう1年かかっちゃった」

少しだけバツが悪そうに笑う先輩の胸を押して、遅いですよなんて憎まれ口を叩くと、ごめんねと微笑んで抱きしめられた。

「好きです、俺と付き合ってください」

1年前のリベンジのように、私は力強くはい、と返事をした。よかったと安堵する先輩を見て、私も内心ほっとしていた。

春の陽気に膨らみ始めた蕾が私たちを見下ろしていた。
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第二ボタンを渡すという習慣は、『予科練物語紺碧の空遠く』という映画が起源という説があるそうです。タイトルはそこから取りました。