フラップで覆う愛 (ページ28)

今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:71,081 hit

期待しちゃったスパンコール/izw ページ28

「たまには伊沢くんもどう？」

人付き合いとはときに面倒くさい。ある程度ならメリットもあるのだけど、程度の調節が難しい。

テレビ収録のあと、打ち上げと称して連れてきてもらったのはいわゆるキャバクラだった。目がチカチカする照明の下で、化粧の濃いお姉さん(あるいは女の子に見える子もいる)に囲まれていると、なんだかくらくらしてしまう。

1回くらい来てみてもいいかな、なんて思ったけど、やっぱり性にあわないことが証明された。うん、苦手だ。

「ご一緒してもいいですか？」

ふわりと香る甘ったるい香水の匂いに振り向くと、こういう場には珍しい、清楚っぽいお姉さんが営業スマイルで笑っていた。

断る理由もないので、どうぞと手で示す。他のお姉さんと違って無理矢理派手にしているわけではないメイクに、ピンク色に彩られた爪。自分の魅せ方を分かっている装いだ、と思った。

「伊沢さん、ですよね」

「ああ…はい」

こういうところ初めて？と上目遣いで訊かれると、少しグッとくる。分かっててやっている人とそうでない人の差は随分激しいらしかった。

「緊張しなくていいですからね」

キラキラした爪の光る折れそうなくらい細い指で、俺の頼んだ酒を掻き回す仕草が妙に官能的だった。

「ああそうだ、私の名前、Aって言うんです」

Aさん。生返事のように声に出すと、さん付けしなくていいのにと笑われた。それは初めて来る俺に対する接客の一部なのか、本心から笑っているのかは定かではなかった。

*

結局Aさんはずっと俺のテーブルにいてくれて、俺の話をよく聞いてくれた。話を聞くのが上手くて、ついつい話しすぎてしまった。話すのがこんなにも心地よいのは、久しぶりかもしれない。

これあげるね、と彼女が俺の手に握らせた名刺の名前とメールアドレスは、どうみても彼女の仕事用のものだった。向こうからしたら単なる客に過ぎないのだろう。

それなのに。

「やべえな、俺」

今日初めて会った、キャバクラのお姉さんに、すっかりハマっていた。彼女の纏うスパンコールみたいに煌めくドレスが、瞼の裏から離れない。

店を出るとき、Aさんは『次来た時は指名してね』と手を振ってくれた。ただの営業だとわかっていても、ちょっとだけ胸が弾んだ。

指名したら、ずっと一緒にいてくれないだろうか。そんなことを心のどこかで期待している俺がいた。