寛容なまち針甘い紅/sgi ページ27
Aはキスマークをつけられるのが好きらしい。思えば最初から嬉しそうにしていた気もする。付き合いたての頃は『いいの?』と確認していたけれど、彼女からねだるので、いつからか何も言わなくなっていた。
俺はそれほど好きではないが、首筋に舌を這わせて赤い跡をつけるだけでぞくりと背筋をふるわせるのを見ると、悪い気はしなかった。
一般的な女の子は、『見えるところにつけないで』とか言うのだろうか。Aの場合職場が比較的フリーなので跡をつける位置にとやかく言うことは無い。
どちらかというと、とやかく言うのは俺の方だ。朝起きると赤い跡がついていることがしばしばある。しかも首筋に。
冬だったらタートルネックの服を着るという対処法があるけれど、夏はそうもいかない。彼女の化粧品を借りて行けばいいのだが、跡に気付かないでオフィスに来ちゃった日ときたら、もうそれはひどい。
「須貝さんどうしたんですか」
という伊沢くんの一言に始まり、
「彼女さん積極的ですね」
と、こうちゃんまでそんなことを言い出すのだから、恥ずかしいったらない。
しかしAにそのことを報告すると、
「あら、私のものって言って何が悪いの?」
なんてドヤ顔で返してくるのだ。ベタ惚れな俺としてはこの顔には勝てない。
俺の大好きな表情の彼女に、仕方ないなあと言いながら抱きしめて、項にちゅ、とキスを落とすのをちょっと期待している自分もいることだし。
「Aのせいだかんな」
「上等ね」
軽口を叩き合いながら触れ合うと、いつもよりも情熱的になったりもするもので。長い長い俺たちの夜が明けるのは、日が差して眩しいくらいになってしまうのだけど、それもいいかな、なんて。
*
朝日の眩しさに目を覚ますと、コーヒーの匂いがした。毎朝コーヒーを飲む彼女の匂いが、だんだんこの家の空気に染み込みつつある。
のそのそと起き上がり顔を洗う。ぱっと顔を上げると、鎖骨の辺りに赤い跡が2つ、ついていた。
「またか…」
服で隠れる場所だからいいけれど、毎回つけなくてもいいのに。人差し指で跡にそっと触れる。あとでそれを見て満足そうに笑うAの顔を思い浮かべれば、このちくりとした痛みの名残を、今日も甘んじて受け入れてやれる気がした。
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まち針ってキスマークっぽいよねという考えから。
たまには積極的な女の子もいいですね。
*
期待しちゃったスパンコール/izw→←ジャケットはスイッチ/ymmt
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作者名:エリッサ | 作成日時:2020年4月19日 23時