ツナゲル/fkr ページ23
『今日時間ある？』
スマホのディスプレイに表示された無機質な文字。『あるよ』と一言だけ返信してスマホをしまった。傍から見たら別になんてことない会話のようだ。だけど心がおどるような話ではない。
福良と私は一言で誘い誘われるような関係だが、それは恋愛感情に基づいてはいない。ちょっと利害が一致してしまったというだけ。
単純なお誘いなら、福良よりもあの人の方がいいのにな。そんなことを思いながら私はカツカツとヒールを鳴らして彼の元へ向かった。
*
「ね、今日がっつきすぎじゃない？」
福良の首に手を回しながらそう言うと、彼は普段見せることのない表情をして、私を鼻で笑った。
「Aがねだるからでしょ」
どうしてこうも人を煽る言い方しかしないのだろうか。神経を逆なでされたようで少しイラッとする。
眉根を寄せた私を一瞥して、彼はまた私の首筋へと舌を這わせた。慣れた手つきも私を見る瞳も、何も救ってはくれないのに、もう1年近く彼の言いなりになっていた。
私の想い人には彼女がいる。すらっとした美人で、お似合いのカップルだった。失恋しても諦めきれなかった。デート現場を見てしまった日にはそれはそれは大泣きした。泣くのにも疲れ果てた頃、私の気持ちを知ってか知らずか福良が誘ってきたのだ。
福良には想い人がいるのだろうか。寄れたシーツの上でふとそんなことを考えた。恋人がいるとは聞いたことないけれど、もしかしたらいるのかもしれない。しかし、そうであっても関係ない。私と彼との関係に、感情なんてものはいらないから。
ぎゅ、と彼に縋るように抱きしめる。福良からの愛がほしいわけじゃない。向こうだってそんなものは求めていないはずだ。それなのにずるずると関係を続けてしまうのは、私の弱さなのかもしれない。
私の手と福良の手を合わせると、彼は手を絡めてきた。大きさの違う手のひらは、まるでパッチワークのようだった。やっぱり私たちは互いの欲と感情を、縫い合わせてできている。
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ふくらさんのことが好きなわけじゃないけど、失恋の痛手を癒すために利用しているAさん。ある意味大切だし不可欠な関係でした。
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作者名：エリッサ | 作成日時：2020年4月19日 23時
