クロスステッチで描く夢

憧れよ、ふりむいて2 ページ14

そして私は東大に入った。

だけど、そもそも学年が違うからか全く会えない。

期待が大きかったせいか、反動ですごく落ち込んだ。

こんなにも頑張ったのに。


大学生になって、サークルに入って、授業に慣れるのに精一杯で何も出来なかった。

大学ってこんなに忙しいのか。

受験生のときに我慢していたオシャレも再開したし、大学生活は楽しいけど、伊沢さんに会えないのなら意味がない。

時間がどんどん過ぎていって、私は正直焦っていた。



*



フランス語の授業が終わって、今日はもうおしまい。

文系だからそんなに授業が詰まっていなかったのは幸いだった。


…今日も会えなかった。はあ、と肩を落とす。

私はなんのために東大に入ったんだっけ。

しかし落ち込んでいても仕方ない。

せっかく時間があるんだから、新しい服でも見に行こうか。

予習や復習に時間を割くような真面目な学生なんかじゃない。

身につけた勉強週間は、受験生のときに比べて明らかになくなっていた。




さて電車に乗ろうか、なんて歩いていると、門のところに知っている後ろ姿。

え、うそ。こんなタイミングよく会えるとかある？

急いで鏡を取り出して、前髪とメイクをチェックした。

よし、これなら会っても大丈夫。

小走りであの背中を追いかける。待って、まだ行かないで。


「伊沢さん！」


自分でもびっくりするくらいの声が出た。

私の声に振り向いた彼もすごく驚いた顔をしている。


「えっと、あの、」


どうしよう、言葉が出てこない。

もし会った時のために、と練習してきたはずのことが出来ない。

私が焦ってしどろもどろになっていると、伊沢さんはふわりと微笑んだ。


「どうしたの？」


まるで小さな女の子に話しかけるみたいだった。

彼からしたら年の離れた私は少女に見えるのだろうけど、些か気にくわない。


「QuizKnockに、いれてください」


どうにか振り絞った言葉は、それだった。

尻すぼみになってしまったが、聞こえただろうか。

そーっと顔を上げると、くつくつと口を押さえて笑っている彼がいた。

何か変なことを言ったっけ。

否、初対面でこんなことを言うのはどう考えても変だ。



伊沢さんは、ああ面白かった、と言うと私に向き直った。



「まずは自己紹介からでどうかな？お嬢さん」

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