ウサギとカメ、と (ページ42)

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「あなたこんな暑いのに手ひやひやなのね」

ひやひや。
やっぱり北斗の使う日本語は可愛らしくて好きだ。
手先は冷えたままでも心が温まっていく。

「末端冷え性でして」
「俺も寒がりだし冷え性。お揃い」
「冷え性のお揃い、いいじゃん」

そう言うと、はは！と彼の笑い声が静かな夜に響く。

「あなたって否定的なこと言わないね」
「正面から否定しない文化好きなの」
「うん」

穏やかな彼の相槌。

考えには理由があって、行動には動機がある。
その共通認識の下、彼は私の理由を待っていた。

「考え方・感じ方なんてそれぞれ違って当たり前だと思ってるから、自分の『こう思った』に対して『それは違うよ』とか『それよりもこうでしょ？』とか言われると困る。だから言わない」

「でも空っぽの肯定も嫌でしょ？」
「そうなんだよね」
「俺もそうだもん。面倒な奴だよな」
「そうだね」
「この場合は真っ直ぐな肯定も複雑だね」
「じゃあもう『全然そんなことないよぉ～』ってする？」

やめなさいよ、なんて笑ってすぐ、足を止めた彼。
そして回れ右。
視界に入るつま先が一歩ずつこちらを向く。
そのまま彼を伝っていけば、真面目な顔が待っていた。

「貴女はそのままでいてよ」

さっきと同じ真剣な目でも、今度は子犬のような縋る目。
不安、心配、懇願。
彼の奥底にある感情は何だろう。
やっぱりその目は簡単に読み取らせてくれない。

「北斗も、ずっと面倒な奴でいてね」

読み取れないその難解さが彼そのものなのに。

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