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水曜日。
7月上旬、梅雨の終盤らしい大粒の雨が降っていた。
普段であれば北斗との間にある距離も、傘を差すことでそれらしくなる。
「ねえ北斗」
ぼたぼたと打ち付ける音の合間に、んー？と間伸びした返事がはっきり耳に届いた。
「うさぎとかめって童話あるでしょ？あれって本当にお話通りの展開だと思う？」
今日はこれについてどうしても話したかった。
彼ならこの話を面白いと思ってくれる自信があったから。
「面白い事考えるね」
そのひとことだけで私の気分は簡単に上がる。
「この前たろちゃんが教育実習前の模擬授業で道徳をやってて、その題材がうさぎとかめだったの。それ聞いてたら解釈の仕方は一辺倒じゃいけないなと思って」
彼は、ははっと大きく笑うと、傾いた自身の傘から雨粒を降らせた。
「もうちょい聞かせて」
片方の口角を上げて楽しそうに笑った。
興味を持ってくれたようで、嬉しさのあまり軽快に口が回り出す。
彼は人を気持ちよく話させる才があるのかもしれない。
「大幅にリードしてたうさぎさんは余裕ぶって休憩がてらのお昼寝をした。休まずゆっくりでも歩いて来たかめさんが寝てるうさぎさんを追い抜いてレースに勝った、っていうのが定番の本筋じゃない。でも私は【うさぎさん実は動けなかった説】を提唱したいんだよね」
うん、と彼の相槌が聞こえる。
「うさぎさんに何らかのハプニングが襲って、だから止まらざるを得なかった。本当ならこのままゴールしたいのに…って思ってるうちにゴールされちゃってた、みたいな」
「それで言うと俺は【かめさん実は起こしてあげた説】。寝てるうさぎさんの横を通り過ぎる時に、俺行くけどいい？って声かけたのよ。でも起きなかったから諦めてゴールに向かった」
「結局かめさんいいやつ？」
ちらと私の方に視線を下げると、多分ね、と保険をかけた。
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作者名：この葉 | 作成日時：2022年11月22日 23時
