ウサギとカメ、と (ページ22)

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そこまで言い切って、ふと思った。
私は彼についてもっと知りたいのかもしれない。
考え方、振る舞い、ふとした時の仕草、言葉選び。
この短い間でどれだけの彼を知っても、まだ知らない事が幾千とある。
でも分かりたくない、分からないままでいいと思っている。
彼の真髄には触れてはいけない気がするから。
敢えて空けられている距離を埋める必要はどこにも無い。

「そうだな」

耳が拾った彼の呟きは空に向けられていた。

「分からなくていい事もあるだろうし、俺の場合 “分かりたくもない”が含まれる場合もあるかも。分かりたくもない“それ”が俺には堪らなく素敵に見える」

彼にある分かりたくもないことはなんだろう。
彼から見る私の分かりたくもないことはなんだろう。
そもそも分かりたくもないと思われるほど興味を持たれているだろうか。
知りたい、知りたい。

「…A？」

はっとした。
この感情はきっと傲慢で、彼は嫌がるはずだから。
それすらも求めようとした自分の浅はかさに、思わず溜息を落とした。

「分かりそうで、分からない」

溢れてしまった言葉に彼はふわりと微笑み、緩めのパーマを左右に揺らした。

「それがあなたの“美”なんでしょう？また、話そうよ」

夜の僅かな光を反射したビー玉のような目。
まるで私の思考を何でも分かってるみたいに光らせるんだ。

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