ウサギとカメ、と (ページ3)

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何も起きない日々をつらつらと過ごしていると約束の日はすぐにやって来た。

初対面の男の人がいるわけだし普段よりもほんの少しだけ着飾る。
媚を売りたいのではなく、どうせなら良い印象持たれた方がいいじゃん、ってだけ。

履き慣れないシューズと格闘しながら急ぎ足で向かう。

店の近くでちょうど良くLINEが来た。

果歩 [中にいるからAで入って！]

人の名前を勝手に使うな。

案内された個室の扉を開ける。

「お待たせしまし…た…？」

そこにいたのは満面の笑みで私を迎える彼女と、人との繋がりを持たない私でも知っている大学の密かな有名人。

女の子達がこぞって格好良いと騒ぐ対象であるその人がなぜ？

「一旦集合」

果歩の腕を引き部屋の隅の壁すれすれまで寄る。

「松村君だよね？どういう繋がり？」
「その辺も話すからとりあえず座ってよ！」

さっきとは反対に、私が手を引かれて彼女の隣に腰掛ける。

斜め前に座るその人はやや俯いて、行き場の無い視線をメニューに落としていた。
軽くウェーブした髪が目にかかり、竹を割ったように真っ直ぐに落ちた鼻筋。
どこか儚さを感じると同時に、どっちも視界の邪魔になりそうだな、なんて。

「こちら！私の高校時代の友人A！」

突如始まった他己紹介に、急ぎ口角を上げてぺこりと頭を下げた。

「こちら！私の大学からの友人北斗！」
「どうも」

くすりとも笑っていない顔が上がり、一瞬その視界に私を捕らえるとすぐに視線を戻した。

「もう、北斗人見知りして愛想悪くなるのやめな？印象良くないよ」
「あなたにだってこんなもんでしょうよ」

…やっぱり付き合ってんの？なんて疑問はどうでも良くなってしまった。

果歩に対して向けられたその笑顔があまりに綺麗だったから。

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