ウサギとカメ、と (ページ12)

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夜9時。
ため息11回目。

マスターの話が始まってかれこれ1時間、大我くんはやっとで小学校に入学しました。
このペースだと大我さんが現在の20歳になるには、あと2時間はかかる。
力尽きるのも時間との勝負になりそう。

ため息12回目。
スパンが短くなってきた。

そんな私の呆れたため息を聞きつけたように、くすくすと人を馬鹿にしている顔がカウンターの奥からひょっこり覗いた。
それも昼のマスターと全く同じ姿勢で。

「まだ捕まってんの？」
「捕まってます」

疲れた顔を見せれば、大我さんはさっきよりも楽しそうに笑った。
目元にきゅっと皺が寄る可愛らしい笑い方。

「おじいちゃん、もう夜遅いんだから体に障るよ？」

…この人は私の心配なんかミリもしない。知ってた。

美しさと可愛らしさを兼ね備えた見た目の癖に、中身は全く可愛らしくない。
気分屋で天然で悪戯好き。
良く言えば無邪気、悪く言えば我が儘。

「もう9時か！よし、今日はお終い！続きはまた今度だな」
「今度ですか…」

苦笑いの私。

「ほら、Aも帰んなよ」

にやにやの大我さん。
すぐ人の気持ちを弄ぶ大我さんは本当にタチが悪い。

「お疲れ様でした！」

制服が入ったトートをむんずと取ってお店を後にした。

あれ、昼と立場が逆になってる。おかしい。
きっとあの人は私の後ろ姿を見てまた楽しそうに笑っているんだ。

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