先入観 ページ15
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え…？
それだけ…？
意外…。
きっと、また二宮さんは女の子に電話していて…
仕事とはいえ、また私はイヤなことを言って…
またからかわれて悔しくなって…
先入観で、この先をそういう風に想像していた私は、拍子抜けして、呆然とその後ろ姿を見送った。
……。
そして…
手の中の小さなジュース缶に視線を落とすと、訳もなくなぜか急に心がじんわりきて…
さっきの応対からずっとガチガチに緊張していた心が、ホッと緩んだのがわかる。
そしたら…
勝手に涙がぽろりと一粒零れてきた。
ああ、そうか…
今は誰もいないから、泣いてもいいんだ…。
そう思って、そのままジュース缶を握りしめると、なぜか涙がぽろぽろ落ちてきて、止まらなくて…。
立ったまま俯いて、顔をジュース缶と一緒に両手で押さえて、声を出さずに私は泣いた。
しばらく涙が零れるままに泣いて泣いて…
それから顔を上げて窓の外を見つめていると、涙が止まる頃には張っていた気が全部抜けて、楽になった。
＋＋＋
…二宮さん、なんでこれをくれたんだろう？
疲れた時には…って、もしかして、さっきの騒ぎを知っているのかな？
でも…
いつもの二宮さんだったら、いいネタ見つけたとばかりに
“なに、さっきの騒ぎ！あの対応何よ(笑)？”
とか言って、逆にいろいろからかってきそうなのにな…。
それに、今日はここで電話してたわけでもなさそうだけど…。
ジュース間違えて買ったんなら、メンバーさんにあげたりしないのかな…
でも、仲が良いから、ひとりにあげると喧嘩になったりとか…？
ん？
いや、仲が良いから、こんなことでは喧嘩にならないか…
疲れた頭で、そんなどうでもいいことを、とりとめもなく考えてみたりして。
＋＋＋
それは…
今考えたら、初めて私が感じた和也の優しさだったんだけど、その時の鈍い私はこれっぽっちもそんなことに気付くことはなく…
さっぱり状況がわからないまま…
でも…
ちょっとだけ…。
もしかしたら、意外と二宮さんって、いい人なのかな…
なんて、そう…なぜかちょっとだけ嬉しくなって。
外の景色を眺めながら小さなジュース缶をありがたくいただいたんだっけ。
渇いた喉には、少し温くなったミックスフルーツジュースの甘さが本当に美味しくて…
あの時の疲れた身体に、そして心に、何かがじんわりと優しく温かく沁み渡ったんだった…。
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作者名：kico
| 作成日時：2014年11月7日 16時
