先行ってて。 ページ12
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４階フロアに着いても、吹き抜けの玄関ロビーから、ねちねちした声がまだ響いている。
吹き抜けのホールの隙間から遠目に下を覗くと、言いたい放題だったオッサンが、ちょうど口ごもり始めたところだった。
どうやら今頃自分の屁理屈が間違っていたことに気付いて、少し話の流れが変わり始めたみたい…？
「…？二宮さん？」
立ち止まったまま、隙間から１階を見下ろしてるオレに、マネージャーが首を傾げた。
「あー…
ごめん、ちょっと先行ってて」
マネージャーにそう断ると、大野さんが振り向いた。
「お、なんだ？
ニノ、どーした？」
大野さんがオレの視線を追いながら、オレの方に戻ってくる。
正面玄関ロビーのオッサンは自分の態度を棚に上げて、今度はAちゃんの応対を責め出した。
どうやら、どんどん大きくなってきたオッサンの声に、Aちゃんが言った“ここでは他のお客様のご迷惑になりますので、こちらへどうぞ”的な一言が、いたく気に入らなかったらしい。
“迷惑だからこちらへだと！？その態度はなんだ！！”
“お客に対して失礼じゃないか！！”などと喚き散らしている。
はっ、何が『お客』だよ。
胸クソ悪りーな。
失礼なのはどっちだってーの…！！
オッサンの態度が明らかに迷惑行為にあたると判断したのか、ようやく警備員たちが走って駆けつけてきた。
そしたらオッサンは、謝るどころか、“この小娘が！！”“まともな番組流しやがれバカヤロー！”最後にはAちゃんに向かって放送禁止用語の暴言を吐くだけ吐いて、慌てて出て行った。
……。
大声が響き渡っていた玄関ロビーが、一転してシーン…と静謐に包まれる。
Aちゃんは、最後まで姿勢を崩すことなく、オッサンが出て行った方向に深々と礼をすると、周りのギャラリーたちにいつもの笑顔で頭を下げ、見守っていた他の社員たちにも笑顔を見せて、持ち場に戻るように促している。
「すっげーな…最後まで涙ひとつ零してねーかんね。
しかも、あっこまで言われて、礼して締めるなんて、ありゃプロだな…」
大野さんが唸った。
マネージャーもロビーを見下ろしながら大野さんとオレの方に戻ってきた。
「彼女の対応が、そのまま社の対応になりますからね。
ああいう苦情対応担当者は、どこの会社でも模範となるように徹底的に鍛えられているんですよ。
さ、時間がないので、お二人とも急いでください…」
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作者名：kico
| 作成日時：2014年11月7日 16時
