仕事 ページ35
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「…え？」
思わず、聞き直した。
「あの人…すっげ素直で、いい人だからさ…」
和也は、そこで言葉を切って、それから天井を見詰めたまま、静かに続けていく。
「オレ、今回、全っ然すごくなんてないからね…。
…っつーか、逆だよ逆。
仕事なんだからさ、最高の状態でやれるように自分を管理すんの当たり前でしょ、って話なんだよ。
それができなかったら、その時点で、失格。
んなつもり全然なくてもさ…無意識だったとしても、心のどっかで余裕かましてたらダメなんだよね。
こんくらいなら大丈夫、行けっだろって…」
「和也…」
「オレたちの仕事ってさ、一人でやってる訳じゃないから“できませんでした、ごめんなさい”じゃ済まないでしょ」
「……」
「他の４人にも迷惑をかけちゃうし、スタッフさんだって沢山いてさ。
そこまでひっくるめてオレたちの仕事なワケよ」
「うん…」
「お客さんは、みんな、遠ーいトコから、高っかい金払って見に来てくれてんだよ？
どんな事情があろうと、そんなの見てる人にはなんも関係ないじゃん。
誰かに仕事が偏る時期があっても、その誰かだけ大変なんてないの。
表には見えない仕事なんて、みんなたくさん抱えてんだよ。
条件は５人とも同じ。お互いさまなんだって。
だから、忙しいっつっても、仕事には波があるからそれを見越して自分を管理する。
どんなに忙しくても、それが当たり前。
プロなんだからさ。
…で、オレたちは、当然、最高のものを見せる。
それがこの仕事だろ…って。オレはそう思う」
一息で言い終えて、和也が深く呼吸した。
「…でもね…和也…
私…上手く言えないんだけど…」
腕の隙間から、和也は視線だけこっちを見た。
「私たち、人間なんだから、機械やコンピュータみたいに思うようにはいかないよ。
不測の事態がいつ起きるかわかんないでしょ？
いつも最高の状態でやれるとは限らないよ。
そのために仲間がいればフォローし合うものだし、その時は自分の限界まで頑張るしかないじゃない？
大変なのに頑張っている姿を見て、そこでもらう勇気もあるんだよ。
その姿を、見てる人はちゃんと見てくれるから…」
「そんなこと言ってんじゃないの。
オレが言いたいのは、そこじゃないからね…」
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作者名：kico
| 作成日時：2014年9月28日 15時
