しゃがれ声 ページ8
.
「ヒロアキ君、春にはこっちの東京本社勤務になる内示が出たんだって？
今回の出張もその一環で、春に本社転属予定の社員を集めての研修だったんだろう？」
うそ…
そんな話は、一言も聞いてない…。
「…まさか…それも知らなかった？」
「う…うん…」
「そうか…」
天を仰いでマサトがため息をつく。
「いずれにせよ、ヒロアキ君ともう一度よく話した方がいい。お互いに誤解があってはいけないし、大事な話だから」
「うん…。そうだね、帰って電話してみる…」
ヒロが転勤…。
だから、結婚話が進んだのかもしれない。
思い当たることもある。
ヒロは共働きには理解がある方だ。
それなのにサナちゃんが仕事を辞めたということは、何か他に理由があるのかなという気はしたけれど、それがヒロの転勤なら納得がいく。
でも…
どうして転勤の話を私にしなかったんだろう…？
「…それから、ついでにもうひとつ。
実は午前中に、お前の所属について問い合わせる電話が総務課にあってね。
受けた社員の話だと、嫌な感じのしゃがれ声で年配の男性だったらしいが…心当たりはある？」
「…ううん、特には」
「そうか…。
通常の苦情なら、Aたちの方から連絡先を伝えているだろ？わざわざうちに問い合わせてくるなんて違和感があってね」
確かに、相談室で受けたお客様なら、きちんと名乗ってこちらから所属と連絡先はご案内している。
なぜ総務課にそんな電話が…。
「受けた社員が不審に思って『こちらから折り返すので連絡先と用件を教えて欲しい』と尋ねると、何も言わずに電話が切れてしまって、結局、誰から何のための問い合わせだったのかわからずじまいなんだが…」
「いやだな…何だろう…」
「まあ、何も無いとは思うよ。だが、念のため気を付けておいた方がいい」
「うん…」
私が前に感じた視線や、ヒロが見た不審人物の話が真っ先に頭に浮かんだけれど、その2件は先に相談室ありきの出来事。
所属を問い合わせてきたということは、私が相談室にいる事を知らない人…
つまり、別件…。
視線や不審者の件は何かの偶然で、私やヒロの勘違いの可能性があるけれど、総務課への問い合わせは事実だ。
誰が何の目的で…？
いろんなことが頭の中でぐるぐる回って、よく整理できない。
とにかく、仕事を終えて家に帰ったら、ヒロに電話して。
その後でもう一度ゆっくり考えよう…。
息を吐いて、カップをことりと置いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2738人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：kico
| 作成日時：2017年9月27日 15時
