快適なはずなんだけど… ページ36
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夕方にはAの局での収録が終わり、次は今年のコンサートツアーにむけてのスタッフとの全体打ち合わせ。
5人それぞれ、自分の移動車で都内のスタジオへと向かう。
初日まであと3週間を切ってるから終了時間は未定、今日は何時に上がれるかわかんない。
「……」
「……」
何も喋らずに移動車の中でゲームやってんのも、マネージャーが連絡事項以外ほとんど話しかけてこないのもいつものこと。
オレにとって、この静かな移動空間はすっげー快適なはずなんだけど…
今日は運転席の方から何とも言えない威圧感があって、どことなく居心地が悪い。
.
さっきは、結局あのままエレベーターでAを1階で降ろした後、入れ替わりで他のスタッフが乗ってきてそのまま一緒にDスタに入っちゃったもんだから、マネージャーとは何も話せていない。
オレから何か言うべき？
でもなんて言う？
『忘れ物だなんて嘘の伝言なんてしちゃってごめんねー！』って？
いやいやいや。いい歳した大人がガキじゃあるまいし。
今さら何言ったって、言い訳にしかなんないんだからさ。
……。
まあね。
さっきのは確かに迂闊だった。
車のキーか…
は、思い付きだったから、そーいう細かいことなんて考えてなかったわ。
もしものことがあった時には、Aだけは守んなきゃってのは常に頭ん中にある。
だけど、ほとんど使われていない社員用エレベーターの扉が、まさかあのタイミングで開くなんて普通思わないじゃない。
がっつりキスしてるとこじゃなかったのが、せめてもの救い。
ま、男のオレはマネージャーに見られてたとしても気まずいなー程度で別に平気だけど、Aの立場を考えると…
さすがにね。
咄嗟にAを後ろに隠してバツの悪さを噛み殺したオレとは対照的に、Aは「失礼しました」と距離を取って、瞬時にただの知り合いの顔に戻ってしまった。
相変わらずあのヒトの切り替えの早さはすげーのよ。
無言で階数ボタンを押し、1階に着いたら他人行儀にマネージャーとオレに深々と礼をしてすぐに降りて行っちゃったもんだから、Aとも何だか気まずいまま。
今のうちにAにメール入れとこ…と、スマホを取り出してロックを解除した。
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作者名：kico
| 作成日時：2017年9月27日 15時
