それだけで十分。 ページ17
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『手、離すなよ？』
『わかってる』
Aとオレとの約束なんてのは、すっげー抽象的。
それ以上の具体性は、何も伴っていない。
AはAの意思でオレの傍に居る。
オレはね、それだけで十分。
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人の気持ちほど、不確かで脆いものはない。
裏切られるのが当たり前、永遠なんてあるはずがない世界。
だけど。
Aとの何気ない時間の積み重ねは、オレの仕舞い込んだ感情を引っ張り出しただけでなく、いつの間にかオレの中の何かを少しずつ…でも、着実に変えてきた。
もう一度だけ。
確かなものの存在を信じてみるのも悪くないかなって。
Aが一緒ならそれでいい。
Aさえ味方で居てくれたらそれでいい。
本気でそう思ってる。
…ホントはさ。
今でも信じてないよ、永遠なんて。
口先だけの言葉なんてのも信じちゃいない。
言葉では何とでも言えんだから。
それなのに、オレに永遠をくれるって言ったAの言葉は素直にすっげ嬉しかった。
極論、永遠があるかどうかなんて、オレにとっちゃ最早どうでもいいことで。
振り返れば、Aに手を差し出したあの時。
もしもあり得ないはずの何かがあった時には、もう二度と誰も信じらんなくなるのは覚悟の上。
それでも、もう一度だけ。
Aだから、この感情ともう一度だけ向き合うって決めた。
オレの手を勝手に離さない―――。
Aがあらためて言葉と指切りでオレに交わした約束は、すんごい甘くて擽ったくて。
忘れてた何かを取り戻せたような気すらして。
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「…いや、にしても、意外だった。てっきりニノもAちゃんとその手の話が出てるもんだと思い込んでたわ」
「や、マジでないよ、そーいうの。
まあ、うちのお嬢さん、あんま興味ないんじゃないっすかね。そーいう話、一切してこないし」
「ニノはさ…それでいいの…？」
「は、いいも悪いもあなた、まだ何の保証もできないんだからさ。
Ｊんとこと違って、求めてもいないヒトにこっちから言葉にするなんて、逆にズルいでしょ(笑)」
このままでいい。
ずっと、このままオレが離さず一緒に居れば、そのうち結果は自ずとついてくる。
潤くんは潤くん。
オレらはオレら。
それで別にいいじゃないよ。
＋＋＋
こんこんとノックの音がした。
楽屋のドアが開き、アシ君が顔を出す。
「お待たせしました！
何とか準備終わりましたので、今から開始します！スタジオに移動お願いします！」
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作者名：kico
| 作成日時：2017年9月27日 15時
