奇遇だね。 ページ22
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胸の中のAの大きな瞳からは、指で拭ってやってもすぐに次の涙が浮かんでは零れ落ちてくるもんだから。
「あんま泣くと、目が腫れてお化けになっちゃうよ(笑)」
そう言ったら、今度はくしゃくしゃな顔で涙を止めようと頑張ってる様子が愛しくて。
目が腫れてようと鼻水たらしてようと、自分でも笑えるくらいAがいい。
離さないよ。
Aじゃなきゃダメなんだって。
顔を愛しいヒトの髪に埋め、ありったけの気持ちを込めて「呪いだよ呪い(笑)」と嘯いた。
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「…んじゃ、そろそろハナシしよっか」
胸の中のAに声を掛けると、こくりと頷いた。
「まずは今のAの気持ち、正直に教えて」
「私の…気持ち？」
「そ。オレの仕事とかそーいうの全部抜き。純粋にアナタの事情だけ考えて、アナタがどうしたいのか。今の正直な気持ちをそのまんま聞かせてよ」
思ってることを素直に零してほしくて、胸に抱き込んだ体勢のまま問いかける。
「…和也が…好き…」
胸の中から涙を我慢しているAの声が小さく返ってきた。
「う…大好き…」
「うん…」
「もうどうしようもないくらい好き…」
「そりゃどーも(笑)」
「最初より好きになって困ってる…」
ぽつりぽつりと聞こえてくる泣きそうな声も、その内容も。
ぜんぶ可愛くて顔が緩みそうになるけど、ニヤけてる場面じゃないからね。
「あらー奇遇だね。オレとおんなじじゃん」
おどけて誤魔化して覗き込むと、Aは涙をまたほろりと瞳から零して、「う…」と唸ってまたくしゃくしゃの顔になった。
「あーもう(笑)」
その顔もずっと見てたいくらい愛おしいなんて言ったら、また泣くんだろうね。
仕方がないから、涙で詰まるAの顔を手近にあったタオルで笑いながらごしごしと拭いてやる。
「はい、それで(笑)？…だったらAはどーしたい？」
「…私は…う…ずっと和也と…一緒にいたい…」
「うん。でも、そうできない色んな事情がアナタにある訳だよね。この状況で自分の事情だけで答え出しなさい、ってなったら、Aはどうすんの？」
この際、オレの事情はなんとでもなる。
Aがこの先をどうしたいと思ってんのか。知りたいのはそこ。
「このまま…地元に帰って…叔父さんの事務所で働く…」
「…このままだよね？」
「うん」
「付き合ったままってことだよね？」
「うん」
ニヤッと口角が上がる。
「答え出たじゃないよ」
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作者名：kico
| 作成日時：2019年5月30日 12時
