根くらべ ページ43
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「やっとAと繋がった…」
「うん…」
ヒロとあんな話をしたからか、自然と涙腺まで緩んでくる。
「実はまだ仕事なんだけどさ。今日も遅くなりそうだし、ずーっと声聴けてなかったじゃん。 ちょっとだけ時間作れたから、掛けてみた」
「うん…」
和也だ…。
和也の声がする…。
あれだけ話したい事があったのに、頭が真っ白だ。
涙をこらえて、言葉を探す。
「…ずっと忙しいんでしょう？大変だね、連日…」
「まーね。偉い人と一緒にあっちこっち挨拶廻りさせられてんだけど、これがなかなか面倒なのよ」
「うん…」
「まー、根くらべっつーかさ…」
「根くらべ…？」
「そ…ここんとこずーっとだからね…さすがにそろそろわかってくれてもいいんじゃないですか…って…」
個室なのか、電話の向こうにお店のざわめきは聞こえない。
代わりに聞こえているのは、甘くゆったりとしたムードミュージック。
その合間に響く和也の声…。
「早くAに会いてぇな…」
「和也…」
「いい加減、Aが足んなくて禁断症状なんだって…」
オレに力をちょうだいよ…と絞り出すような小さな声で和也が囁く。
「うん…私も」
「A…」
「私も会いたい…会いたいよ…」
声が震える。
どうしよう…恋しさが募って今にも涙と一緒に溢れ出してしまいそう…。
「…どした？」
「え？」
「そっちでなんかあった？」
「…どうして？」
「や…元気ないじゃん」
和也…。
「Aのそーいうの、声でわかるっつったでしょ。あんま時間ないけど、ギリギリまで聞かせて。ん？いーよ、どしたの」
優しい言葉に、涙がぽろんぽろんと落ちてゆく。
あのね、こっちに帰っている間も、いろんなことがあったの。
ヒロのこと、叔父さんのこと、若先生のこと、マサトのこと…伝えたいことは次から次に胸の中に溢れ出て。
どこから話せばいいのかわからない。
「あ、あのね…私…」
私が口を開くと同時に。
『―――あ〜見ぃつけたぁ〜！ねぇカズくぅん、早くぅ。まだ終わんないのぉ〜？』
遠くで微かに甘ったるい女の人の声。
えっ？
聞き間違い？？と思う間もなく、和也が電話を手で覆った気配がして、『はーい、いま戻るとこだから』と答えた声も聞こえて。
「…あーごめんなさいね。ってことで、いまちょーっと取り込んでんすよ。
また後でかけ直しますんで、じゃーそん時に」
感情なく言われて、ぷつっと切れた。
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作者名：kico
| 作成日時：2019年1月18日 12時
