小鉢 ページ32
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食事会はヒロとサナちゃんの「来年の春に結婚します」という報告から始まり、2人の進行で滞りなく進んでいく。
「不束者の弟ですが、どうぞ宜しくお願いします」
姉としてサナちゃんのご両親に改めてご挨拶をすると、ご両親からも、
「こちらこそはねっかえりな娘だけど、宜しく頼みます」
「ヒロ君が傍に居てくれたらひと安心よ。おばさん息子ができて嬉しいわ。これからもよろしくね、Aちゃん」
と温かい言葉をいただけて、ホッと安堵感が広がった。
「よし、じゃあこれで堅苦しい挨拶は終わり。料理食おうぜ！」
ヒロが乾杯の音頭をとり、美味しいお料理をいただきながら、思い出話に花が咲いてゆく。
「この大根もカブもこっちの里芋も、全部うちの卸した野菜なんだよ」
話の合間に、目の前の鮮やかな小鉢の中身をサナちゃんのお父さんが、ほろ酔い加減の上機嫌で説明してくれた。
「うちのが届けたお野菜をこんなに綺麗に美味しくいただけるなんて幸せだわ。
いつもお野菜を持ってくるたびに“一度でいいからここで食べてみたいねえ”って、この人ともいつも話していたのよ」
サナちゃんのお母さんが顔を綻ばすと、サナちゃんが「でしょ？」と胸を張る。
「お母ちゃんたちがそう言ってたから、ヒロくんがここにしようって。2人ともヒロくんに感謝しなきゃだからね！」
「ありがとうね、ヒロ君。おばさんとっても嬉しいわ」
「まったくだ。いい息子が出来て幸せ者だよ」
「や、俺ほかにいい店知らないし、そういやサナがいっつもおばさんたちがそんな話をしてるって言ってたことを思い出して、じゃあここにしようかって。
半分はサナの親孝行みたいなものですから」
「聞いた？それじゃあ、サナにも感謝してね」
「ははは、我が子ながら口の減らん娘だよ」
サナちゃんのお父さんは笑ってビールのコップをくっと空けると、ヒロに向き直った。
「こんなはねっかえりだが、わたしらにとっては大事な一人娘だ。…ヒロ君、サナを頼んだよ」
「はい」
「お父ちゃん…ヒロくん…」
力強く頷くヒロの隣で、喜びの涙が瞳いっぱいに盛り上がり泣きそうな笑顔を見せたサナちゃんも本当に幸せそうだ。
「本当によかったわ。2人とも末永く幸せに…。
…あら、いやだ、ごめんなさいね、おばさん歳を取って涙もろくなっちゃって…(笑)」
サナちゃんのお母さんは言葉が続かなくなり、手にしたハンカチで目頭を押さえている。
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作者名：kico
| 作成日時：2019年1月18日 12時
