不自然 ページ14
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「…ヒロはあんなこと言っていたけれど、私はマサトを利用なんてしないよ」
「なんだよ、即答か。少しは迷って欲しかったんだがね…相変わらず頑固だな」
「何を言われても同じだもの」
「そうか…」
マサトが苦笑したけれど、答えは決まっている。
「…まあいいよ。そう言うだろうなとは思っていたから。とりあえず今の答えは受け取った。気が変わったらいつでも言って？」
変わらない。変わるはずがない。
両手をきゅっと握りしめた。
「…それじゃ、2つ目の話をするとしようか」
「何の話？」
「今回の出張についてだよ。ちょっと気になることがあってね。Aに話しておこうと思って」
マサトが空いた紙コップをクシャリと潰す。
「お前が東京を発った日の夕方、部長と一緒にいきなり役員室に呼ばれたよ。
交換人事の件で、今年の人事交流はここの地方局を最優先にしろ、という直々のお達しだった。
しかも、早々と今のうちから交流の事務手続きを進めておくように言われてね。迅速に進めるために担当者ではなくうちの担当課長が直接出向いて手続きを固めておけと、急きょ俺に出張命令が下った。どうやら役員より上のクラスの人間から内々で指示があっているらしい。
表向きの名目は“系列局を含むネットワーク全体での相互協力体制強化の為”だそうだが…おかしいと思わないか？」
「…どうして？」
「人選もこれから、希望者がいるかもわからない、それなのに系列他局を差し置いてここの地方局だけ特別扱いで、既に来春からの交流実施が前提だぞ。どう考えても不自然だよ。
それに、交換人事なんて社の業務の本流からすれば末端事業、“人事交流”“相互協力”と言えば聞こえはいいが、余力で行うパフォーマンスみたいなものだ。
先週やっと株主総会で決算報告が終わったばかりで、総務課は今から来年度の予算編成に追われる忙しい時期なんだ。こんな大事な時期に、末端事業の為に課の決定権を持つ担当課長に急な出張を命じるなんて普通はあり得ない」
「……」
マサトの言う通りかもしれない。
総務課長は総務課の責任者であり決裁権者だ。
予算編成で忙しい時に急な出張、しかも大きなプロジェクトならまだしも、人事交流の事務手続きという担当者レベルの業務遂行の為にだなんて…
言われてみれば、確かに不自然だ。
「そして、今回のAの出張。急な話だったよね」
「う、うん…」
「これも不自然だよ」
「…え？」
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作者名：kico
| 作成日時：2019年1月18日 12時
