お風呂の話 2015.1 ページ10
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全て二宮さん視点。
年が明けて、束の間のゆったりした2人の時間。
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週末の多くをうちのマンションで過ごすAは、ずっと置いておける物以外、必要な物は自分のマンションからこまめに持って来ては、こまめに持って帰る。
通勤用の冬物のアウターを入れ替えるとかで、先週は大きめの旅行鞄に詰めてまとめて持って帰り、今週は先週持って帰った以上にあれこれ詰めて持ってきた。
小さな身体に大きな鞄がいつも以上にアンバランスで可愛くて、思わず吹き出して。
遠慮するのを「いいから貸しなさいよ」と玄関先で奪い取り、寝室のクローゼットの右扉前まで運んでやった。
後はお任せ。
そのままベッドに寝転んで、見るともなしに彼女がクローゼットに洋服を仕舞ってゆくのを眺めてると、鞄の底の方に、仕事関係の資料やディスク類に混じって、Aの部屋で見た記憶のある薄目の紙袋。
すべて服を仕舞い終えたAが、バカ話に笑いながら何事もなくそれらを取り出してリビングへと持って行こうとした中から、その紙袋をひょいと取り上げた。
「あ、それは」と慌てるA。
開けてもいい？と問えば、僅かに困った顔をしたけれど、すぐに頷いて「うん、いいよ」と。
記憶していた通り、紙袋の中に入っていたのは薄い旅行パンフレット。
関東の某有名温泉地の某高級老舗旅館のやつ。
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それは、まだAの部屋に頻繁に通っていた頃のこと。
合鍵で入ってひとりAの帰りを待っていて、ボールペンを借りようと机の上のペン立てに手を伸ばしたら、弾みで、隣に置いてあった小物入れの箱とその奥に隠すように置かれていた紙袋を床に落とした。
中から土産物と思しき包みが転がり出てしまい、慌てて元に戻そうと開けて見るともなしに見てしまった紙袋の中身が、このパンフレットだった。
各棟が完全遮蔽された豪華露天風呂付離れの温泉宿。
利用客の秘密は厳守と謳ってある。
ああ、Aもきっとこーいうの行きたいんだなと、納得してこっそり元に戻した記憶。
「やだな、それね、違うの。別に行きたくて大事に仕舞ってたとかじゃなくて…」とAが笑う。
ただ、職場で行った人がいて、すごくよかったって話題になって、みんなにお土産と一緒にパンフレットを配ってくれた、
何気なく開いてみたら、確かにちょっとだけ、こういうのもいいなって客観的に思った、
頂いた物だから、捨てずにお土産と一緒に持って帰った、
それだけなんだよ、と。
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作者名：kico
| 作成日時：2020年7月15日 20時
