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公になるのが怖いから本当に行こうとは思わないけれど、行けるはずのないところに行ったつもりで想像してみると楽しくて、
パンフレットはそのまま自分のマンションの机の隅に仕舞ったままだった、と。
「それにね、今回はパンフレットじゃなくてこっちを持って来たかったの。時間がなかったから紙袋ごと持って来ただけ(笑)」
Aが取り出した土産物の包みを解くと、高級そうな和紙にパッケージされた温泉地の入浴剤。
「最近、寒い日が続いて、そういえば高い入浴剤をいただいて使わずじまいだったのをふと思い出しちゃって。
和也はあまりこういうの好きじゃないでしょ？これから和也が忙しくなって週末も急に帰って来れなくなるかもって聞いたから、そんな時にここの広いお風呂で1人で露天風呂気分でも味わってみようかなあって」
それだけだよ、と笑うけど。
こないだ一緒に見てたテレビ番組でこの温泉地の特集やってたじゃないよ。
パンフレットだって開き癖が付いていて、あの頃、1人で何度も眺めて憧れてたんだろなってのは想像に難くなくて。
こーいうところ自己完結しちゃうヒトだもんな…と苦笑。
入浴剤の説明書をAが読み上げる。
『温泉成分配合ミルキーバス』『美肌効果で湯上りしっとり』『冷え性にも』と。
1人で露天風呂気分をゆっくり味わうつもりでいるから、忙しくなって帰って来れない時も気兼ねなくそう言ってね？
くすくす笑っているAの手から、入浴剤をひったくる。
「へー、『乳白色の至極の湯』ね…」
いいことを思いついて、にやりと口角を上げた。
「いーよ、使おうじゃないよ」
「え？」
「寒い中、大きな鞄抱えて地下鉄から歩いてオレんちまで来たんだから、まだ身体冷え切ってんじゃない？
どーせなら、今からすれば？…オレもこの『至極の湯』とやらに興味あるし、せっかくだからご要望にお応えして、2人で露天風呂ごっこといこーじゃないよ(笑)」
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2人で明るいバスルームで乳白色のお湯につかる。
「我々は露天風呂ごっこをしたいワケだよね？露天つまり外に開かれていなければただのお風呂ごっこであって、露天風呂ごっこじゃないんだからさ」
屁理屈で、浴室と脱衣所の扉を開けたまま、向かいの部屋の窓を全開。
直接には外は見えないけども、風が通って一気に背徳感が増す。
室内に湯気が…とAが渋り顔を見せたけど、問答無用。
キスしながら左手でボタンを外すと、恥ずかしそうに背中に腕を廻してきた。
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作者名：kico
| 作成日時：2020年7月15日 20時
